9 愛しい熱が交わる時

「んぅっ……しん、や」


 互いの唇を貪るような、深くて甘いキス。

 裸になってベッドに押し倒されているだけで、心臓が激しく脈打つ。

 それでも、真夜の体温が愛しくて、もっとと強請ってしまう。

 舌を絡ませて、キスに夢中になっているうちに、真夜の手が僕の体を這う。


「……ひぁっ?!」


 真夜の指が敏感になっている乳首をいじる。

 びくん、と反応してしまったことに赤面していると、真夜がにっと笑う。


「佳月、かわいい」

「う、るさい」

「睨んでる顔もかわいいな」


 ちゅっ、ちゅっと額や頬にキスを落とされた。

 完全に真夜のペースになっていることが悔しくて、僕は真夜の首に腕を回してその唇を奪う。


「本当に、佳月はキスが好きだな」

「……悪いか?」

「いや。体中にキスしてやらないとなって思っただけ」


 そう言って、真夜は僕の首筋に吸い付いた。

 チリっとした痛みのあと、じんわりとそこが熱を持つ。

 キスマークをつけられたのだ。


「好きだよ、佳月」


 お前は俺のものだ――そう言われた気がした。

 胸がきゅんと疼く。

 同時に、真夜のキスだけで僕のアソコは硬くなっていた。


「待ちきれないって顔してるな」


 真夜が笑みを浮かべ、左手で僕の性器に触れる。

 それだけで、ビクッと体が反応してしまう。


「一回、出しとくか?」


 そう言って、真夜は竿をしごきながら、乳首を舐め始める。

 気持ちいいところを同時に攻め立てられて、体がおかしくなりそうだ。

 こんな感覚、初めてだった。

 だからこそ、怖くなって、真夜に縋り付く。


「だめ、あっ、それ、やめっ……」

「すごく気持ちよさそうな顔してるけど?」

「ん、だから……っ感じすぎて、だめ……イク、イク、あぁぁっ……!」


 乳首を甘噛みして、右手でもう片方の乳首をいじり、左手で僕の股間に触れて。

 あっという間にイかされてしまった。

 真夜の手が僕の精液まみれになる。


「ちゃんとイけたな」


 よしよし、と頭を撫でられるだけでも、僕の体は感じてしまう。

 それを見て、真夜はまた唇を寄せた。

 真夜の舌が、熱が、僕の口内を犯していく。


「んぁ……」


 気持ちいい。

 全身が真夜に染まっていくみたいで、もっと、欲しくなる。


(全然、違う……)


 真夜の熱に浮かされながらも、どこか冷静な頭で思い出していた。

 祖父に触れられていた時のことを。

 体中にキスをされて、舐められて、精液を吐き出されて。

 その度に自分が穢されていく気がしていた。

 だから、早く終わってほしいとは願っても、もっと欲しいなんて思ったことはなかった。

 けれど、大好きな真夜に触れられて、彼のすべてが欲しいと思う。

 もっと、奥深くまで、真夜を感じさせてほしい。


「真夜、も、挿れて……?」

「だめだ。もっと時間をかけて愛したいから」


 真夜は、僕の体のことを心配しているのだろう。

 けれど、その過保護さが今はもどかしい。

 祖父のことも何も考えられないくらい、めちゃくちゃにして欲しいのに。


「僕の準備はもうできてるから。ね?」


 両脚を広げて、物欲しそうに疼く穴を見せつける。

 真夜がゴクリと喉を鳴らした。

 天に向かって反り返る真夜のペニスは、先走りの汁で濡れていた。


「わかった」


 頷いて、真夜はゴムを取ろうとした。

 しかし、僕はそれを止める。


「真夜、お願い。僕にちょうだい」

「……っ! せっかく優しくしようと思ってたのに、どうなっても知らないからな?」

「うん。真夜の好きにして……!」


 今まで僕の中を犯した祖父の存在を真夜で塗り替えてほしかった。

 僕の言葉を聞いた瞬間、真夜は両膝を抱えて、いっきに挿入してきた。

 祖父のモノよりはるかに大きく、圧迫感がすごい。


「佳月、俺を見ろ」


 無意識に目を閉じていた僕の顔を真夜が両手で包み込む。

 凶暴な下半身に対して、触れる手はどこまでも優しくて、僕はそっと目を開ける。


「今、佳月を抱いてる相手は、誰だ?」

「しん、や」

「そうだ。だから、佳月な俺のことだけ見て、俺のことだけ考えろ」


 こくり、と頷くと、軽いキスが落ちてきた。


「愛してる」


 愛の言葉が耳元で聞こえた直後、真夜は動き始める。


「あっ、あ、あぁ、はげし……」

「好きだ、佳月。お前にこうやって触れたいって、ずっと思ってた……はっ、締めつけんなよ」

「だって……あっ、あっ、だめそれ」


 真夜は抽送を止めることなく、僕の性器の先っぽをくにくにといじりはじめた。

 その上、乳首に吸い付いたり、舌で舐めたり、甘噛みしたりと、性感帯をいくつも同時に攻め立てられて。

 イっても終わらなくて、ずっと気持ちよくて、頭がおかしくなりそうだ。


「だめじゃなくて、イイんだよな?」

「……ぁっ、ん、もっと」

「俺も、もっと佳月をめちゃくちゃにしたい」


 向かい合っていた体勢から、ぐるりと体を反転させられて、今度は後ろから貫かれる。

 パンパンと肌がぶつかり合う音と、荒い息遣いと嬌声が響く。

 激しいのに愛しくて、苦しいのに気持ちいい。


「はっ、イきそ……っ!」

「あっあっ、出して。僕を真夜でいっぱいにして」

「そんな殺し文句どこで覚えてきたんだよ」


 そんな言葉を呟いたかと思えば、真夜はまた僕の体をくるりと転がし、向かい合う。


「佳月、愛してる。お前はもう俺のものだ」


 吐息も唾液もすべて絡ませるような深いキスとともに、激しい抽送が始まる。

 自分の中でさらに質量を増していくモノに全身の感覚が奪われる。

 ぎゅっと逞しい腕に抱き締められて、僕も真夜の腰に足を絡ませる。

 動く真夜の腹筋に僕の性器も触れて、その度に感じてしまう。


「んんっ」

「はぁ、も、出るっ」


 びゅるる、と熱いものが僕の中に出された。

 その瞬間、僕もイってしまった。

 どくどくと脈打ち、僕の中に精液を吐き出して。

 また、だんだんと硬度を増していく。


「あれ、なんか……また大きくなってない?」

「……悪い。俺、一回じゃ足りないかもしれない」

「え……?」


 祖父の場合は、一日一回きりだったし、勃たない日もあった。

 まさかこんなにすぐ元気になるなんて予想外だった。

 でも、それだけ僕を欲しいと思ってくれていることの証明でもある。


「なぁ、もう一回、いいか?」


 だから、真夜にそう問われた僕の答えは決まりきっていた。


「何度でも。だって、僕は真夜のものだから」


 暗闇の中で、自分を殺して体を差し出していた時にはセックスという行為を気持ちいいなんて感じたことはなかった。

 こんなにも胸がいっぱいになって、幸せで満たされるのだと真夜が教えてくれた。


「愛してるよ、真夜」


 ――あの日の約束を守ってくれて、ありがとう。

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