第2話
「佐野さんと付き合うことになったよ」
と、幸佑に笑顔で報告された時、うまく笑えていたか分からない。
ビンタされたあの日以降、二人がよく話しているのを見かけたし、こうなるように望んでいたのは事実。
「よかったじゃん。仲良くな」
思ってもいない言葉を吐く。
鉛のように心が重くなって、息が苦しい。
「ありがとう。進展したきっかけがユキだったのは複雑だけど、佐野さんもユキのことは許すって言ってたよ」
許す? 勝手に勘違いして告白してきたのは佐野だ。
苛立ちが増したが、表面上は平静を装う。
「ふぅん。ま、じゃあ俺先帰るわ。佐野と帰るだろ?」
「あ、あぁ」
幸佑の顔が見れなかった。
すっと横を通り過ぎて、教室を出ると、佐野がいた。
幸哉を睨むその顔は、可愛いとはまったく思えなくて。
でも、これから佐野は幸佑の彼女だ。
(俺が我慢すればいい……いつもみたいに)
「佐野さん、コウのことよろしくね」
本当は誰にも任せたくなんてない。
自分が一番幸佑の近くにいたい。
そんな欲望を呑み込んで、笑みを浮かべる。
「う、うん。武藤くんは、彼女作らないの?」
「あー、俺は別に興味ないから、気にしなくていいよ。佐野さんはコウのことだけ見てて」
――俺からコウを奪っておいて、よそ見するなんて許さない。
いつも幸佑と歩く道を一人で帰りながら、初めて会った日のことを思い出す。
幸佑と出会ったのは小学二年の時。
空き地だった隣に家が建って、やってきたのが幸佑たちだった。
幸哉の両親は共働きで、夕方はいつも家に一人ぼっちだった。
そんな寂しい日々は、幸佑に出会って変わる。
家が隣同士で、同じ小学校で、同じ学年。
毎日遊ぶようになって、当たり前のようにいつも一緒にいた。
変化が訪れたのは、小六の時。両親が離婚した。
その事実が受け入れられなくて、家を飛び出した。
公園で一人泣いていた幸哉を探して、優しく抱きしめてくれたのは幸佑だった。
『なぁユキ。俺たち二人とも、名前に”幸”が入ってるだろ。二人でいれば幸せも倍になると思わないか?』
その笑顔が眩しくて、両親が離婚した悲しみも寂しさも、幸佑がいれば大丈夫だと思えたのだ。
(コウは友人として、励ますために言ってくれただけなのにな。俺はあの時からずっと……)
思春期を迎え、友人たちが女子相手に胸を躍らせていた時も、自分だけは違った。
手を繋ぎたいのも。キスをしたいのも。抱きしめ合いたいのも。
一緒にいて幸せになりたいのは、いつだって幸佑だった。
幸佑も、自分を見てくれればいいのに――そう願っていても、この関係を崩したくなくて何も言えなかった。
自分の気持ちを伝えなければ、幸哉は幸佑の一番の親友でいられる。
だから、いつも幸佑の彼女が羨ましかった。
幸哉が手に入れられないものを簡単に享受できるのだから。
いつか、この恋情が消えて、ただの友達に思える日がくるのだろうか。
彼女と一緒にいる幸佑を近くで見ているのも、好きだという気持ちを我慢しながら側にいるのも、苦しくてたまらない。
「どうせ消せないならいっそ……」
想いをすべてぶつけて、とことん嫌われてしまおうか。
そうすればきっと、諦めもつく。
高校三年の夏、幸哉は幼馴染の関係を終わらせることを決めた。
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