父の背中2
気を取り直して、スコップを握り直す。
やはり、相手がゴーレムであるなら、核となる物質を探して潰して機能停止させるのがセオリーだ。あの巨大な土塊の中に、握り拳一つ分程度の魔石が埋め込まれているはず。それを探し当てて、潰せばミッションコンプリート。
ゴーレムの体格を見て、手順を考える。
最初の攻撃で、両腕は一度落とした。
だが、核となりそうな魔石はなかった。
ケトラが落とした方の腕は確認していないが、ケトラも流石にそこは確認しているだろうし、あれば潰しているはずだ。よって腕はもう狙う必要はない。
普通ならかコアは頭か胴体の中心に埋め込まれているが、用心深い奴が作った場合なら、奇天烈な場所に隠している可能性も捨てきれない。
足から順番に攻撃していくべきか。
それとも初めから本体を狙うのが早いだろうか。
巨大なゴーレムだ。一撃でも喰らえばダメージは必死。
慎重に行動するべきだ。
「お兄ちゃん、核の場所とか考えてるんでしょ。そんなの考えるだけ無駄なんだから、早く攻撃しちゃおうよ。あのゴーレム、私達のこと認知してないみたいだし、そんなに警戒する必要もないと思うよー」
そんな俺の思案を蹴り飛ばすように、ケトラは肩を叩いてくる。
気を引き締めるように言った側からこれだ。
父は俺たちを似ていると、よく言うがそれは外見だけの話。
こうした性格の面では大きな差異が出ているのは明らかだった。
「いや、一応計画は立てるべきかなって……」
「あの子、結構激しく暴れてるじゃん。早く止めたほうが街へのダメージも少なくて、国とかギルドとか、街の人から褒められると思うけどなー」
慎重に行動すべきだと思ったが、ケトラの言うことにも一理ある。
ゴーレムはこうしている間にも街を破壊し続けていた。
これ以上被害を出さないために、早く討伐すべきなのは俺も同意だ。
そうと決まれば、やることはシンプル。
ケトラの言う通り、ひたすらにスコップを振るだけでいい。
「分かった。さっさと倒しちゃおう」
「それでこそ墓守の中の墓守だよ!早く帰ってドーナツでも食べよう」
ケトラも、スコップを構え直した。全く、調子のいい奴だ。
「俺は上から、ケトラは下から、行くよ!」
「了解!お兄ちゃん!」
簡単な指示を出してゴーレムに向かう。
ケトラはまだ、飛行の魔法が使えない。よって、俺が飛んで上から、ケトラが下から攻めることで挟み撃ちする作戦にした。ケトラもジャンプ力だけなら、十分あの高さには辿り着くだろうけど、安定して攻めるには浮遊したほうが有利なのは確かだ。
そして、俺たちは、普段から二人で依頼をこなしている。
挟撃するのは、慣れたものだ。
深く考えなくても、体が動いてくれる。
以上の理由から、それが最適だと判断した。
俺は地面に一度手をついて、体制を整えて集中する。
頭の中で詠唱を済ませて、魔法を発動させる。
すると、すぐ全身に浮力を感じて宙に浮かんだ。
真っ直ぐにゴーレムの頭上を目掛けて飛行していき、真上に着いた。
俺が飛んでいる隙に、ケトラは既にスコップを振るっていた。
カンカンと大きな音を立てつつ、足を削っていく。
支えを失った巨大な体躯が鈍い呻き声を上げながら倒れていく。
綺麗に足を飛ばしたらしく、垂直に地面に胴体が落ちていった。
ズシンと大きな音が鳴って土煙が上がる。腕と時よりも何倍も大きな砂の煙幕が、辺り一面を隠した。
この煙の量では雨でもすぐには収まらない。
「よっ、ほい!」
ケトラは大丈夫だろうかと、案じているとタイミングよく声が聞こえてきた。
リズムよくスコップが攻撃する音が聞こえる。
「心配はなさそうだな……よし」
ゴーレムが停止したことで狙いやすい状態となった。
ケトラに追従して、俺も本格的に動くとするか。
浮遊の魔法を一度解除して、重力に従って下に落ちていく。
位置エネルギーをそのまま利用して、叩きつけるようにスコップを振り下ろす。スコップの平らな面が、
ゴーレムの頭にのめり込み、そのまま頭部を砕いた。
そのまま柄を握って出鱈目に振り回す。
落下しながら獲物を振るって、土を砕く。
落下の勢いは減速することなく、そのまま地面に足がついた。
その頃にはケトラの働きもあって、ゴーレムは完全に土に戻っていて、辺りは静寂を取り戻していた。
だが、肝心の核はまだ見つかっていない。
相手の体を崩す度に確認はしていたが、それらしきものは見つからなかった。
単に見落としているだけか、ケトラの方に埋まっていたか。
確認のために、妹に呼びかける。
「見つかった?」
すると、妹から大きな返事が返ってくる。
「いーやー?なかったよー!」
どうやら、下の方にもなかったようだ。
しかし、それはおかしい。核となる魔石には魔力が流れている。
それ故に発光もしているし、魔力検知にも引っかかる程度には魔力が漏れ出ているのだ。そして、このサ
イズのゴーレムを動かすにはそれなりの大きさの魔石が必要なはず。
これだけ粉砕して、見つからないと言うのはありえない。
「魔法陣……でもなさそうだよな……」
「別の方法ってこと?」
「いや、そうだな……」
思考を回す。
今一度ゴーレムの基本を思い出す。
ゴーレムは基本、動かすのにそこそこの量の魔力が必要だ。
だからこそ、魔石を埋め込むか、魔法陣を編み込んで作っていく。
だが、今はこのサイズのゴーレムにも関わらず、それらが見当たらない。
俺が知る限り、魔石も魔法陣が不必要なのは手のひらサイズの小さいゴーレムか、術師がどこからか魔力を送っているかのどちらかだ。
魔力がほとんどいらないか、何処か別の場所から供給を受けているかの二パターン。
このサイズで魔力がいらないということはないので、後者のパターンか。
つまり、
「マズいよケトラ、別の場所に核となる物質があるか、隠れて操っている術師がいるかも」
「やっぱりそう思う?私もアーク兄ちゃんと同じ考えだよ」
ケトラも同様の思考を辿ったらしい。
面倒そうに、ため息を溢していた。
「ってことは、めちゃくちゃ探すのが面倒だし、時間がかかるやつじゃんね」
「ああ、そうだな。気合いを入れなくちゃ」
そうこうしている間にも、ゴーレムは再び形を取り戻していく。
土塊が腕に、足に、胴体に、順々にくっついて輪郭がはっきりと形となる。
徹底的に壊したから、少し時間は掛かるだろうけど、じきにまた暴れ出すだろう。
「ケトラ、長期戦になりそうだけど大丈夫?」
「私は全然大丈夫―。別に今日は予定もないからねー」
「ならアイツの足止めを頼んでもいいかな?」
「おっけー。お兄ちゃんが核を探してくるんだね。りょうかいだよ」
だからこそ、妹にゴーレムが暴れて街を破壊するのを止めてもらい、その間に何処かに隠された術師か核を俺が見つけ出す。
それが今の最適解だ。
何処にあるかは全く目処が立っていないから、完全に手探りになる。
時間がどれくらい掛かるのかも分からない長期戦が想定される。
ふぅ、とため息が漏れる。
「疲れちゃうよね、アーク兄ちゃん」
「うん……」
これから何時間走ることになるのだろうか。
そのことを考えると、気が重たくなった。
心なしか、さっきよりも雨が重たくのし掛かってきている気がする。
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