(創作BL)あざむく、あざむき、あざむかれ

一条珠綾 マジカルラブリー

第1話

オタクイケメン作家23歳×詐欺師30歳


♡創作BLです

♡のんびり更新です


 生きるためには、金が必要だ。それはきっと、唯一絶対で普遍の真理。だから、俺は、俺に捧げられた気持ちを金に変える。感情を受け止めるのも大変なんだから、それの対価だと思えば決して安くないだろう。

 俺の職業は、結婚詐欺師。それも、同性愛者専門の。


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「あっ! すみません!」

 木漏れ日が美しい日比谷公園で、俺は、二人がけベンチの片方に座って本を読む男に向かって、コーヒーをぶっかけた。正しくは、腕がうまく動かずに、男に向かってコーヒーカップを倒してしまった演技をした。

 そのコーヒカップの中に入っていたコーヒーはわずかに男のシャツの袖にかかり、その余りは地面に溢れた。

「わぁっ……」

 男は小さな声で驚き、急いで本を閉じた。

「本当にすみませんっ……! 熱かったですよね」

 俺は、謝罪の言葉を述べながら、ハンカチで男の袖を拭う。

 コーヒーをぶっかけられた男の名前は、間宮純一。ベストセラー作品を量産している若手ミステリ作家だ。

 作家という生き物は、インドアな”もやし野郎”だとばかり思っていたが、間宮は違う。確かに、背は高いが、ただ細いと言う印象はない。どこで買ったのか分からない青色のチェック柄のシャツに覆われた胸板は厚い。下調べによれば、学生時代は剣道をやっていたらしい。だからなのか、背筋もよく、一本の若い樹木のような安定感を感じさせる。

 染めていない少しだけ癖のある黒髪は、眼の上で切り揃えられている。少し野暮ったいノンフレームの丸眼鏡は、父の遺品だったはずだ。

 年齢は、大学を出たばかりの二十三歳で、在学中からベストセラー作品をいくつも書き上げているミステリ作家だ。ベストセラーになったある作品は、今度ドラマ化されるらしい。

 顔はマスコミ非公開だが、俗にいうイケメンだ。キリッとした目元と高い鼻梁、薄い唇はバランスよく配置されている。服装と髪型でモサモサしているように見えるが、素材は良いのだろう。現に、安いジーパンなのに、そこそこ決まっている。

「あ、いえ。あなたは大丈夫ですか」

 間宮は、シャツに構うことなく、俺のことを気遣ってくれる。

「本当に申し訳ありませんでした。時折、腕の動きが悪くなってしまって」

 俺は、腕を不自然な角度で固定したまま、再度謝罪を述べる。

 今の俺は、白いシャツに黒いチノパン、水色のスニーカーという至ってカジュアルな格好だ。

 今回のターゲットである間宮の好みに合わせて、髪の毛は黒くして、さっぱりと見せている。

俺は申し訳なさそうに苦笑して、自分の腕を見る。それにつられて、間宮の視線は俺の腕に向かう。そして、気遣わしげに尋ねられた。

「差し支えなければ、あの、腕が悪いんですか」

「あ、悪いというほどではないんですが……。時々、筋肉が固まってしまって、思ったように動かせないことがあるんです。医者からも原因は分からないと言われてしまって」

「ああ。そうなんですね」

 間宮が何かを思い出したように小さく頷く。「僕の祖母も同じ症状があったので、分かります」

「おばあさまが……? 」

「祖母は身体が弱い人だったので、あなたと同じ原因かは分かりませんが、一日に数回、腕が痺れたように動かなくなっていました」

(知ってます)

 詐欺をやる上で重要なことは、一がリサーチ、二もリサーチ、三四もリサーチで、五の最後でターゲットにアプローチだ。間宮のことは既に、家族構成、生い立ち、行動範囲、身長体重、好き嫌いエトセトラに渡るまで把握している。

 間宮の生い立ちは、共働きの両親にはあまり構ってもらえず、祖母に育てられたところが大きいようだ。祖母のことが大好きなこの男は、彼女と同じ症状をもつ人間を放っておかないだろうと予想していた。そしたら、案の定、こちらが放った針に引っかかってくれた。

 心の中で、ガッツポーズをしながら、リサーチ済みの話を真剣に聞く。

「そうですか……。あの、出会ったばかりなのに、こんなことをお願いしてもいいのか分かりませんが、もしよければ、お祖母様はどんな先生に診てもらっていたのか、聞いてもいいですか」

「え? 」

「今の先生は、検査をお願いしてもしてくれなくて、少し心配なんです。あ、ほら、えーっと、なんでしたっけ」

 医療にはあまり詳しくないということを表すために、言い淀んでみる。

「セカンドオピニオン?」

「あ、そうです! それです」

 間宮は優しく誘導してくれる。俺の主演女優賞級の好演技によって、示し合わせたように物事が進んでいく。

「それは、もちろん構いません。でも、昔のことなので、一度調べてみたいと分からないんです。えーと、散歩にはスマホを持ってこないようにしているので、一度帰宅してからでもいいですか? 連絡先をいただけたら、そちらに送ります」

「本当ですか? 嬉しいです。では、LIME交換しましょう」

 俺はパッと顔を輝かせて、微笑む。

 俺のような清楚な美青年に微笑まれたら、誰だって鼻を伸ばすだろう。

 そう思っての演技だったが、間宮は顔を少し綻ばせただけだった。

 その顔に違和感を覚えながらも、俺はまんまと間宮の連絡先を手に入れた。


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