第9話 校舎トイレの怪談②

 俺の推測通り、山本さんに案内されたのは校舎3階にあるトイレだった……のだが、ここで一つ問題が発生した。


「ごめん。聞き間違いかな?今、なんて言ったの?」


「だから、美玖が花子さんに捕まったから助けてって言ってるの。」


「いや、そこはいいんだけど。別に。その…トイレってどっち?」


「はあ?女の子なんだから女子トイレに決まってるでしょう。」


 お分かり頂けただろうか?

 花子さんに意識を削がれていたけど、そういえば田所さんが女子だというのを忘れていた。

 女子が入るトイレは当然、女子トイレ。

 では花子さんを試したトイレは?

 それも当然、女子トイレだ。


「えっと……つまり山本さんは俺に女子トイレに入れと言ってるのかな?」


「仕方ないじゃない。私がどうにかしたいけど、私にはなんにも出来ないし…もう立花くんに頼るしかないの……お願い…」


 そう言いながら山本さんは泣き崩れてしまった。


 女子トイレに入るのは人として終わってるし最低な行為だけど、泣いている女の子の頼みを無下にしたら男として終わってしまう。


(仕方ない。覚悟を決めろ、立花秋連。)


「山本さん…頼みがあるんだけど、誰も入って来ないか見張っててくれる?出来る限り早く戻って来るから。」


 俺の頼みを聞いた山本さんは首を縦に振った。


「ありがとう。山本さん。」


 立花秋連、16歳

 この度、女子トイレに入ります。


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 出来る限り何も見ないようにしながら先に進んでいると、ドアらしき物にぶつかった。


(この辺か)


 恐る恐る目を開けると、案の定目の前には真っ白のドアがある。


(これは1番目、花子さんは3番目っと)


 そのまま横にスライドして動き、遂に3番目のドアの前に辿り着いた。


(この中に花子さんと田所さんがいる訳か…それにしては物音が全くしないな)


 こんな狭い空間で何かしらの抵抗をしているなら、それなりに物音が響くはず。

 それがないという事は既に終わってしまった可能性が高い。


「田所さん!!」


 最悪の事態を想定した俺は思わず声を荒げてドアを勢いよく開けてしまった。

 そしてその先にある光景に思わず呆けてしまう。


「……え?」


 中には田所さんがただ1人、俺の方を向いて立っている。

 ただそれだけで花子さんなんてどこにも居やしない。


(一体どういう事だ…?)


「田所さん、とりあえず無事でよかったけど…花子さんはどこに行ったの?」


 分からないことは知ってる人間に聞いた方が早い。

 そう思って田所さんに聞いてみたが、彼女はバツが悪そうに顔を俯けたまま、小さな声で謝った。


「ごめんね。立花くん。」


「——え?」


 次の瞬間、俺はトイレに閉じ込められた。

 田所さんと2人きりで。

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