第8話 校舎トイレの怪談①
季節は春
新学期が始まって1ヶ月が過ぎた。
俺は相変わらずぼっちのままだ。
(なんだこの高校生活……虚しい…)
幽霊退治で遅刻して来たらクラスメイトから白い目で見られて、逆に早く登校して来てもなんでこいつが来てるんだと言いた気な目で見られてしまう。
(高校生活ってもっと薔薇色のものじゃなかったのか…)
俺だって16歳の男子高校生。
普通に恋愛だってしたいお年頃だ。
だけどこの1年ちょっとで俺の学校での評価は『遅刻ばかりする頭のおかしい人』になってしまった。
男子とすら話せていないのに、女子と会話なんてのは夢のまた夢。
(ちくしょう!これも全部幽霊のせいだ!)
俺自身のコミュ力の無さを幽霊に擦りつける。
これくらいの事は許して欲しいもんだ。
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誰とも会話しない学校というのは暇なもので、気がつくともう放課後になっていた。
「………帰るか。」
なんだか学校に来てる意味もないし、もう退学して幽霊退治に専念しようかな、なんて考えている時だった。
誰かが勢いよく教室のドアを開ける。
スカートを履いている事から女生徒、息を切らしているから顔は見えない。
(息を切らすということは走っていた証拠。このクラスにいる奴に急ぎの用事があるんだろうな。ま、俺には関係ないけど)
なんてどうでもいい推理をひとしきり楽しんで教室を出ようとしたが、次に女生徒が叫んだ言葉に俺の手は止まってしまった。
「はぁはぁ…立花くん、居る?」
(気のせいか?俺の名前が聞こえた様な…いやいや、ありえない。そもそも立花なんてのはよくある名字だ。もしかしたらこっちの橘かも知れないし。とにかく俺ではないだろう)
同性というだけで手を止めてしまった自分が恥ずかしい。
友達なんかいないのに、誰が俺を呼ぶというのだろう。
再びドアに手をかけて今度こそ帰ろうとしたが、またその手は止まる。
今度は物理的に、誰かに妨害されていた。
「立花くん、ちょっと来て。美玖が大変なの。」
その手の主は山本深月さん。
彼女と話すのは峠で出会ったあの日以来だ。
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「トイレの花子さんって知ってる?」
山本さんの案内で何処かへ向かっている最中、いきなりそんな事を聞かれた。
「知ってるよ。有名な怪談だし。」
『トイレの花子さん』
恐らく日本で一番有名な怪談で、内容としては学校の3階トイレで3番目の扉を3回ノックして「花子さんいらっしゃいますか?」と言うと中から返事が帰って来て花子さんが現れるというもの。
「それで、花子さんがどうかした?」
「…立花くんは知ってると思うけど、私も美玖もそういったオカルト系の話が好きなの。」
(峠に肝試しに肝試しに行くくらいだしな)
知ってる、と直接口に出すのはアレなので茶化すのは心の中だけにする。
「だからって訳じゃないけど試してみたの。その…花子さんを…」
そこまで聞いて最初に思ったことは「よくもまあ懲りずに出来たもんだ」だった。
だって普通はそうだろ。
ダッシュばばあで怖い目にあった筈だ。
普通の人間ならオカルトを遠ざける。
(なのにこの2人と来たら懲りもせずに…)
ここまで来たら続きは分かる。
遊びでやってたら本当に花子さんが出たから助けて欲しいって話だろう。
「とにかく案内して。話はそれからだ。」
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