第7話 トンネルの怪談④

 時刻は2:32分。

 ダッシュばばあを祓い、全てが終わった……とはいかない。

 何故ならこのトンネルの外で田所さんと山本さんが待っているから。


「あぁ…行きたくないなぁ。」


『だったら行かなきゃいいだろ。別にこの辺に幽霊はもう居ねえんだ。置いてったって構いやしねえさ。』


「それとこれとは別。こんな夜中だぞ。女の子2人だけって危ないだろ。」


『お優しいねえ。ま、俺には関係ねえし遊びに行かせて貰うぜ。あばよっ!』


 言いたいことだけ言って、雷太は何処かへ飛んで行ってしまった。


「はぁ…ま、こんなとこで悩んでても仕方ないし2人のとこに行くか。」


 俺は2人が出て行った方角に向かって歩き出した。


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 歩くこと約3分。

 出口は思ったよりすぐ近くだった。


 まあ、あの2人がいつまで経っても外に出られなかったのはダッシュばばあの仕業だ。

 あれは追いつくまでトンネルから出さないという厄介な力を持っていた。

 ダッシュばばあを退治した今、トンネルは通常の長さに戻っている。


「おーい、立花くーん。おーい。」


 ぶんぶんと大きく手を振るショートカットの活発系少女——山本深月さん。

 女性らしく胸元で慎ましく手を振るゆるふわロングの清楚系少女——田所美玖さん。

 どちらも2年2組が誇る美少女。

 はっきり言おう。

 俺は今、緊張している。


(あぁ…同じクラスなのに話した事ない人、それもまさかこの2人だなんて…気が重い)


 どんな顔をしたらいいのか分からない。

 とりあえず笑みを浮かべて手を振り返してみたけど2人の顔が少し引き攣った気がした。

 たぶんぎこちなかったんだろう。


「大丈夫!?怪我してない!?」


 洞窟から出るや否や、田所さんにもの凄い勢いで体中を触られた。

 肌が見えているところだけならまだしも、服まで捲り出す始末。


「こら!美玖、止めなさい!立花くんが困ってるでしょう。」


(た、助かったぁ…)


 俺が困っているのを察してか、山本さんが助けてくれた。

 これには本当に感謝だ。

 田所さんは飼い主に叱られた犬の様に縮こまってしまっている。

 こういう仕草でも可愛く見えるのは素直に才能だと思う。


「心配してくれてありがとう、山本さん。でも別に何ともなかったから大丈夫だよ。怪我してなかったでしょ?」


「うん。でも本当に大丈夫だったの?ダッシュばばあはどうしたの?」


 山本さんの口からダッシュばばあの言葉を聞いた瞬間、俺は全てを悟った。

 ああ、この2人は肝試しに来たのだと。


(偶然出会った訳じゃなくて、自分たちから会いに来てたのか。普通だったらあのお婆さん何者?とか聞くもんな)


 このパターンの誤魔化し方は簡単。

 俺自身が全く知らないフリをしたらいい。


「ダッシュばばあ…?なにそれ?あのお婆さんならこんな深夜に学生が出歩いてたから気になったんだって。今すぐ家に帰るって言ったら見逃してくれたよ。」


 そう、これでいい。

 無茶であろうと強引に通す。


「立花くん。その嘘は流石にないんじゃないかな。あんな速さ、お婆さんが出せる訳ないでしょ。」


「うん。アクティブなお婆さんだったね。」


「アクティブって……それで通じると思ってるの!ちゃんと説明して!」


 適当な俺の物言いに山本さんが怒ってしまった。


「説明も何も…俺はただ夜の散歩してただけだし何も知らないよ。それより2人は何してたの?このこと学校に知らされたらマズいんじゃない?こんなとこで話してるより早く家に帰った方がいいよ。」


「あんたねぇ…」


「深月ちゃん、やめよう。ごめんね、立花くん。すぐに帰るから。」


 山本さんが鬼の形相で俺を睨んでいる。

 田所さんはただただ悲しそうな目をしていた。


 これは嫌われたかな…

 でもまあ仕方ない。

 彼女たちまでこっちの世界に関わる必要はないのだから。


「送るよ。女の子2人で夜道は危険でしょ。」


 帰り道、3人の間に会話は一度として生まれなかった。

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