第6話 トンネルの怪談③
(なんとか……間に合った)
実家の感知班から森丘峠で強力な悪霊が暴れてるって連絡があったから急いで来たけど、まさかこんな真夜中に同級生に会うとは思わなかった。
(田所さんも山本さんも真面目そうなのに……はっ!?まさか裏ではめっちゃ悪とかそういうパターン?人は見かけによらないって言うしなぁ…)
同級生の裏の顔
こんなの知らなきゃよかったと後悔をする暇もなくダッシュばばあがその凶刃を振るって来る。
『死ねえぇええ!!!』
二振りの包丁が乱雑に振り回される。
型も何もあったもんじゃない。
ただの素人が刃物を振り回しているだけだ。
そんなんじゃいつまで経っても俺には当たらない。
「そうそう。これだよ、これ。幽霊退治と言ったらこうなんだよ。」
邪気に満ち満ちたその存在感、殺意を乗せた攻撃の数々、話し合いなど通じ余地もない凶暴性、その全てが心地よい。
それに何より、何よりだ。
“夜に出て来る”
そうだ。
やっぱり幽霊には夜が似合う。
『ニヤニヤニヤニヤと気持ち悪い。その薄ら笑い、今に消してくれるわ!!』
おっと、しまったしまった。
あまりの嬉しさに、つい顔に出てしまっていたみたいだ。
だって今までがなぁ…
朝に出て来る、戦わない、すぐに泣き出す、などなど全く幽霊らしくない。
俺としてはやはり幽霊はこのダッシュばばあみたいに殺意満々で向かって来て欲しい。
「さーてと、久々にお前を抜く時が来たな。」
久方ぶりの抜刀に思わず刀に声をかけた。
おっと、これは別に俺の頭がアレって訳じゃないぞ。
この刀は先祖代々伝わる宝剣。
当たり前だが普通の刀じゃない。
「行くぞ、
『全く、都合のいい奴だぜ。お前もよお。』
立花家に代々伝わる宝剣——
この刀には
その名の通り、雷太は雷の妖怪だ。
体は電気で出来ていて姿は変幻自在、どんな形にもなれるけど普段のお気に入りは鳥の形らしい。
「まあそう言うなよ。俺だって戦えるならその方がいいんだぞ。」
『そういう事じゃねえ。戦い以外でも俺を外に出せってんだ。ずっと刀の中じゃ窮屈なんだからな。』
「でもお前、一回外に出すとなかなか帰って来ないじゃんか。」
前に雷太に言うことを聞いて一週間くらい帰って来ない時があった。
本当にただ遊んでいただけらしいけど、肝心な時にいないと力を使えないので俺はそれ以降あまり外に出さない様にしている。
『最初から時間言ってくれれば気をつけて帰る様にするよ。』
「わかった。じゃあこいつ倒したら2時間くらい自由にしていいぞ。だからさっさとやってしまおう。俺もちょっと眠いし。」
『やった!さっすが秋連!話が分かるぜ。それじゃあ…全力出すぜえ!!』
バチバチと電気が走る音が鳴る。
雷太の体から発されたそれは徐々に俺の体を纏い出し、最終的に俺は電気の体と化した。
『な…なんじゃその姿は……その妖力…ありえん。化け物か』
変貌した俺の姿を見てダッシュばばあが怯えている。
俺は今、それ程までに圧倒的な存在となった。
「『おいおい、化け物だなんて言わないでくれよ。繊細な男子高校生なんだから傷つくだろ。』」
俺の声と雷太の声が重なって響く。
これは俺と雷太を一体化させる奥義——
だから声が重なって聞こえるのも無理はない。
『うるさい!この化け物めが!!』
ダッシュばばあはその捨て台詞と共に一目散に逃げ出した。
「『ははは、俺と駆けっこだなんていい度胸してるぜ。』」
ダッシュばばあは確かに早い。
時速30kmは余裕、車にも追いつける速度を出せるそうだしMAXだと時速60kmくらいはいけるとも聞く。
だけど、だけどだ。
今の俺は雷そのもの。
速さ比べをするにはあまりにも相手が悪い。
一歩踏み出すと“ドォン”という衝撃音がトンネルに鳴り響いた。
次の瞬間、俺はダッシュばばあに前にいた。
『は…?』
「『悪いね。あんた遅すぎ。』」
『お…追い抜かれた?このワシが?ありえない…そんなの…あり…えない…』
ダッシュばばあがボロボロと崩れていく。
そう、ダッシュばばあの退治方法は駆けっこでばばあを抜くことだった。
これは俺自身意図せずやった事。
本当なら物理的に退治してやろうと思っていたが、消えてくれるならどっちでもいい。
「『あばよ、婆さん。』」
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