第3話 病院の怪談②
『メヌエット』
記憶が確かならナースコールでよく使われる音楽だったと思う。
「な、何?この音?」
「お母さん怖いよー!」
「皆さん、落ち着いて下さい。」
「今原因を探してますのでそのままでお待ち下さい。」
患者から看護師、その他病院内にいる全ての人間が慌てふためいている。
どうやらこのメヌエットは全員に聞こえているみたいだ。
(やっぱりこれ、幽霊の仕業だよなぁ)
看護師たちの会話に耳を傾けると「444号室から鳴ってるみたい」や「そこって患者さんいたっけ?」「そもそも444号室なんて病室ないわよ」といった会話が聞こえた。
間違いなく、これは幽霊の仕業だ。
(行くしかないよなぁ)
刀は持って来てないけど仕方ない。
まあ、なんとかなるだろう。
覚悟を決めて病院の奥へ足を進めたその時だ。
「待て、立花っ!こういう時は大人しくその場で待つのがセオリーだ。大丈夫、何があってもお前は俺が守ってやる。」
剛力先生がこっちへ戻れと手招きしている。
こんな非日常な場面でも、先生はどこまでも生徒を守ろうとしていた。
全く、心強いったらありゃしない。
「……すみません。」
聞こえてるかどうかも分からない声で謝罪をし、俺は444号室へ向かって駆け出した。
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「ここか。」
あるはずの無い444号室。
ここには案外簡単に辿り着いた。
何故ならエレベーターに堂々と4階が表示されていたから。
病院では4や9といった数字は不吉という理由でなくなっているのは有名な話(病院による)。
4は死を、9は苦しみを連想させるからだそうだ。
444号室なんて悪霊の住処としか考えられない部屋番号。
さて、何が出るのやら。
444号室のドアを開けると中では6人の少年少女がベッドの上で何か叫んでいた。
『……たい………たいよぉ…』
(…たい?痛い…いや、会いたいか?病院で家にも帰れず死んだ子供の霊。家族の元に帰りたい思いが強くてこうなってしまったのか)
家族への未練があるとなれば解決策はその親を連れて来る他ない。
だが……そもそもこの子供たちが何年前に亡くなったのか?
そして家族はまだ生きているのか?
この辺りが重要になって来る。
そもそも生きてたとして連れて来るまでどれ程の時間がかかってしまうのだろうか?
その間、犠牲になる人も出て来るだろう。
だとしたら、もう退治した方がいい。
まだ小学生くらいの子供を殴るなんて俺もしたくはないが、生きてる人を犠牲にするならやってしまった方がマシだ。
右手を強く握りしめる。
覚悟を決めろ。
これは俺自身が決めた道だ。
悪霊はそこにいるだけで生者に悪影響を与えてしまう。
生かしておく事など出来ないのだから。
決心はついた。
手前側のベッドへ出向き、カーテンを開けると俺の事など気にも止めず一心不乱に泣き続けている子供の霊。
「……悪い。」
俺はそんな無抵抗な霊に拳を振り下ろした。
『た…たい。食べたいよーー!!売店のお菓子が食べたいよーー!!!』
その声を聞いて、拳が当たる直前で何とか止めることが出来た。
(……こいつ、今なんて言った?)
『食べたい。食べたい。売店のお菓子が食べたい。』
聞き間違いじゃなかった。
この霊はお菓子が食べたいと言っていた。
(痛いでも会いたいでもなく、食べたいね)
ベッドに一つずつ近付いて声を聞いてみれば、全員が同じ台詞を言っている。
どうやらこの子供の霊たちは何らかの病気でお菓子を食べれないまま死んでしまった霊のみたいだ。
ただお菓子が食べたいだけの霊なら成仏は簡単だ。
「ちょっと待ってろ。菓子買って来てやるから。何がいいとか希望はあるか?」
『ポテチ!』
『僕はコーラ飲みたい!』
『わたしはチョコがいい!』
『アイス!ラムネ味の!』
『みんなで分けられるやつがいいなぁ。』
『それいいね!私も!』
年相応の子供らしい返事が返ってきた。
とにかく沢山買って来て欲しいみたいだ。
「わかったわかった。たーくさん買ってくるから食べたら成仏するんだぞ。」
『『『『『『はーーーい!!!』』』』』』
こうして子供の霊はお菓子を貰って10分も経たない内に天国へと旅立って行った。
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(ふぅ…終わったな)
疲れたなーと思いながら1階に戻るとそこには剛力先生が立っていた。
「あっ」
(ヤバい。先生も居たんだった)
先生の目には俺がどう映っていただろうか?
たぶん緊急時をいいことに病棟へ不法侵入した理解不能な生徒、みたいな感じだろう。
(これでもう見限られたかな)
この騒ぎで診察は有耶無耶になっている。
このまま逃げてしまおうか。
そう考えていたが、先生は俺が予想もしていない言葉を放った。
「この騒ぎでは診察も何もないな。仕方ない…立花、飯に行くぞ。早く車に乗れ。」
「………え?」
「どうした?約束だっただろうが。病院と飯に連れて行くって。ほら、早く行くぞ。昼休みが終わってしまう。」
結局先生はその後も俺に何も聞かず、ただただご飯を奢ってくれた。
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