第79話

「でも…大丈夫なの?連れて歩いて」

「うん…正直不安はあるんだけど、あいつを信じるしかないからな。時々疲れたら熱出したりはするから、なるべく休みを多く取って疲れさせないようには気をつけてる。だから旅は大分スローペースだ。あいつ自身が医者だから、具合悪くなっても自分で注射したりして対処できるし、普通の病人連れてるのとは違うけどな」

「でも…あの子以外にはほんとの病状はわからないってことでもあるのね?」

「まあ…そうとも言えるな」

 タツは少し虚を突かれたような形になった。メイの顔にどことなく深刻な表情が浮かんでいたからだ。

「何か…あったか?」

「あ、ううん、大したことじゃないんだけど。浴場で見てた時…のぼせただけだとは思うんだけど…あの子、普通と比べてそんなに長く入っていた感じがしなかったの。それなのにあんな派手に倒れたから、ちょっと気になってて」

「派手に?そうなのか?」

「うん、意識なかったし、あのままだと溺れかねない感じだった。急に立ち上がったから立ちくらみもあったんだと思うけど」

「そうか…」

「まあ、温泉に慣れていないからかもしれないけど…」

 そこでメイは口調を明るく変えた。

「私、今まではロンデルトで情報屋やってたの。一族の技の基本が忍びの技だったから、その流れもあって、平たく言えばスパイみたいなことね。それでいろんなところに潜入捜査したから、病院で看護婦の助手みたいなこともしてたことあるの。だから、多少の看護はできるよ」

「それは心強いな」

 タツが笑ったのでメイも少しホッとしたようだった。

「メイもそろそろ休んだらどうだ。パワー使ったら疲れただろう」

「そうね、それじゃお言葉に甘えるわ」

 そう言ってメイもユリの隣に横たわった。ユリは安らかな顔で寝息を立てていた。

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