第78話
ユリが寝入ったのと入れ替わるように、先に寝ていたはずのメイが起き上がってきた。
「なんだ、目が覚めたのか?」
「ううん。寝れなくて…」
メイはタツに対しても幾分態度を軟化させていた。
「いいのかしら、私本当に一緒に行って」
「何言ってんだ。俺たちだって仲間が増えた方がうれしいよ」
「…でも…なんていうか、あなたたちの関係って、特別みたいだから」
「そうか?子どもの頃一緒に育ったからかな。兄弟というか、幼馴染というか、まあそんな感じだけどな」
「…あの子…変わった子ね」
「ユリのことか?」
「そう。…ただ守られてるだけのお姫様かと思ってたのに…あんな顔するなんて思わなかった。あれはなんていうか…プロの顔ね」
「まあ、プロの医者だしな」
「そうなんだけど、なんていうのかな…。なんか、ただ職業としてちゃんとやってるっていうのじゃなくて…うまく言えないけど。かなわないっていう気がした」
「んー、…よくわからないけど」
タツが首をひねる。
「あいつは見かけがああだから、ガラス細工みたいだとか人形みたいだとかよく言われるんだけどさ。まあ実際身体は弱いんだけど…芯は強い奴だよ、子どものころから一貫して。そうでないとたったの六歳で一人で外国行ってつらい治療に耐えられたりはしないからな」
「…そう。そんなに小さい時から…」
「それに生き死にの瀬戸際を嫌というほど見てきていると思うから…自分のも患者のも、たぶん。独特の腹の据え方はあるんだろうな。俺も今日そう思った」
「そう…」
メイは少しためらってからタツに尋ねた。
「ねえ。あの子…どこが悪いの?病気なんでしょ?」
「ああ…心臓。アスクラピアで治療受けて、今はもう大分…日常生活送る分には平気なくらいよくなってはいるはずなんだけど…」
「そっか、心臓ね。やっぱり」
「やっぱり?なんで?」
タツが不思議そうな顔をした。メイはまた少し答えをためらった。
「胸の傷…かなり大きかったから。手術の跡かなって思って…。あの子が浴場で倒れたとき見ちゃったの」
「ああ、そうか…メイは風呂で会ったんだもんな。そうか、手術すりゃ傷も残ってるよな。俺たちも見たことはないけど」
「随分気にしてるみたいだった。お湯に入るまでずっと胸隠してたし…年頃だものね」
「そうだよな…全然考えてなかった、そんなこと。そうか、だからあいつ胸元の詰まった服しか着ないんだな。いつもシャツとかタートルネックとか。もっとおしゃれすればいいのにって思ってたんだけど、そういうことか」
タツが天井を仰いだ。
「ま、そのくらい鈍感な方があの子も気が楽なんじゃない」
メイが冗談めかして言うと、タツはおどけて舌打ちをしてみせた。
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