第76話

結局タツとユリでテントを張り、そこにタクを寝かせて、泣きやまないメイを押し込んだ。

「…ユリ…?」

 テントに運び込まれてすぐ、タクは意識を取り戻したが、まだ熱のせいで朦朧としていた。ユリが手を握った。

「タク、気分はどう?」

「んー…だるい」

「うん。熱出てるから。覚えてる?サソリの魔物の毒にやられたの」

「…ああ、そうか…わりい、ドジったな。メイは…」

「大丈夫。そこにいる」

「そうか…」

 ふっとタクの口元が緩んだ。

「大丈夫、タクの体の中の毒ももうほとんど吸い出せたと思う。ショックで熱はもう少し出るかもしれないけど、でも大丈夫。タクは元が丈夫な体してるから。点滴したらすぐ治るわ」

「そうか。ユリにまかせてたら安心だな」

「そうよ。だから安心して休んで」

 タクの顔に笑みが浮かんだ。そしてそのまま眠りに落ちていった。ユリがそっと手を放して真剣な顔で聴診器を当てる。

「どうだ?」

 タツも心配そうだ。

「うん…大丈夫。呼吸も落ち着いてるし、脈もそんなに問題ない。熱は高いけど、薬ですぐ治まると思う」

「そうか。こういうときはやっぱり医者がいてくれると心強いな。助かったよ」

 タツもほっとした表情を見せる。

「ううん。私はいつも守ってもらってるから…。タツは怪我してない?大丈夫?」

「俺は後から来て最後に矢を放っただけだからな。全然問題ない」

「メイさんは?」

 ユリはメイに目を向けた。メイは黙って首を振ったが、ユリは目ざとく腕や足の擦り傷を見つけていた。

「さ、消毒しておきましょう。血が出てるわ」

「…私のことは…いいから…」

「よくないわよ」

 ユリは強院にメイの腕を取って傷を消毒した。幸い怪我は軽いものばかりだった。

「…なんで…私を…」

「え?」

「なんで…助けたの?あの人…あなたたち…。あんなひどいこと言ったのに…」

「メイさん?」

「あの人…私をかばって魔物の毒針に刺されたの。ほんとは刺されるの…私の方だった…ごめんなさい…」

「メイさん。あなたのせいじゃない」

「違うの…」

 メイの眼から再び涙がこぼれ出す。

「一人じゃ…無理だってリュウさんに言われていたのに…私が勝手に出てきたから…そのせいで…」

「メイさん」

 ユリは優しくメイを抱きしめた。

「大丈夫だから。大丈夫。タクも大丈夫だし、あなたも大丈夫。一人じゃ無理なら一緒に行けばいいじゃない。だって目的は同じでしょう?私たち」

「……っ」

「一緒に来いよ、メイ。同じ一族なんだからさ」

「それに、タクのこと教えてくれたのはメイさんでしょ?頭の中で声が聞こえたもの」

「…うん」

「あれがテレパシーなんだね。すごいね、私なんか何も力持ってないもの」

「ユリは普通に治療できるからいいんだよ」

「ね、私たち、一人じゃ全部うまくできっこないんだよ。だから補いあってなんとかやってるの。四人になったらもっとうまくできるよ。女の子が増えて、私も心強いしね」

 ユリが明るく言うと、あるかなきかの声で、

「うん」

 と小さくメイが返事をしたのだった。

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