第73話

二日目は多少荒野の環境にも慣れてきて、ペースを上げることができた。タツとタクがこれまで以上に注意していたせいか、ユリが体調を崩すこともなかった。

 昼食休憩の後である。

「おい、なんか変じゃないか」

 先頭を歩いていたタツが馬を止めて目を凝らした。

「どうした?」

「なんか、あそこに…魔物の気配がする」

 慎重に少し近づくと、砂ぼこりの中でもその様子がよく見えてきた。少々離れた場所で、魔物がただいるだけではなく、暴れていた。巨大なサソリのような魔物だ。

「あれ…だれかいるんじゃない?」

 ユリもおびえた声を上げた。黒い人影があった。

「ほんとだ…助けないと…!」

 魔物の先にいる人物は、身軽に飛び回って毒針による攻撃を避けているようだが、時間も経っているのか足元がおぼつかなくなっている。

 タクが馬を走らせた。

「ユリはそこで待ってろ!馬と一緒に低木のそばに隠れてろよ」

 タツがそう言ってユリに馬ごとシールドをかけると、自分も馬を駆けさせ始めた。一瞬立ちすくんだユリが馬を降りて馬の首を抱きしめた。


「…あいつ…!」

 追いついたタクが見たのは、魔物に襲われているメイの姿だった。薄いシールドのようなもので身を守り、短剣のようなものを投げて応戦しているが、固い殻に阻まれているようだ。

「ちっ…」

 舌打ちをしたが、いまさら見捨てるわけにもいかない。タクは少し離れたところで馬を降りると、短剣を手にとってパワーを込めた。

 ドン。

 パワーの弾が魔物の体に当たり、殻にひびが入った。怒りの咆哮を上げた魔物の眼がぎょろりとタクをとらえた。

「お前…近寄るな!余計なことをするな!」

 メイが叫んだが、すでに体力が限界にきているのは明らかだった。

「うるせえな。もう遅いよ!」

 タクの体が地面をけった。それまでタクがいた場所にサソリのしっぽが突き刺さる。

(しっぽには毒針があるの。気をつけて!)

 タクの頭の中にメイの声が響いた。耳からではなく、直接脳に届くような感じだ。横っとびに避けたタクは、その場で振り返って再びパワー弾を放つ。魔物に当たり怒りの声は上がるが、殻を破るところまではいかない。

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