第71話

翌日、二羽目のタウベが報告書とアリス宛の手紙、それに薬草サンプルを乗せて羽ばたいていった。目を細めてその姿を見守るユリに、タツがそっと声をかける。今日はタクが買い物に出ていた。


「大丈夫か?ホームシックになったりしてないか?」

「ええ?大丈夫だよ」

 思いがけない言葉に軽くふきだしてから、ユリの表情が少し陰る。

「まあ、アリスに会えないのはちょっとさびしいけどね。この十年、病室も寮もほとんどずっと同室だったから」

「そうか」

「でも平気。タツ兄とタクがそばにいてくれるもの。アスクラピアにいた頃の方が、ホームシックという点では重症だったよ」

「ユリ…」

「ずっと里に帰りたかったの。父さんと母さんに会いたかった。もちろんタツ兄とタクにも」

 銀色の髪を風にたなびかせながら、かみしめるようにゆっくりと言って、ユリが笑う。

「だから今、とても幸せだよ」

 極上の笑みだった。天女がほほ笑んだのかとタツは思った。でもなぜか悲しくなった。

「そうか」

 そう返すのが、精いっぱいだった。

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