第69話

「昨日お前らが遭遇したあの男たちに、メイは脅されて盗みをやらされていたんだよ。女の一人旅なんて無茶するなって言ったんだがね、言わんこっちゃなかったってことだ」

 リュウが言うと女はそっぽを向いた。

「ま、そんなわけでメイは悪い奴じゃないよ。あの男たちにはわしが落とし前をつけておいたからもう大丈夫だよ。メイにもお前らにも絡んではこない」

「リュウじい…あんた一体何をどうしたんだ?」

 タクの質問をリュウはあっさりと無視した。

「あ、メイ、こいつらね、昔俺がダリアの向こう側にいた頃の知り合いのちびたち。お前さんと同じ一族の生き残り」

「え?」

 あまりにあっさりと言ってのけたリュウに、メイも眉根を寄せている。もちろんタクたちも納得などできなかった。

「ウソだろ?こいつが一族の生き残り?」

「そうだよ。ロンデルトにいた一族の生き残り。まあ、遠いから知り合いようもなかっただろうけどな」

「なんでわかるんだ?」

「なんでって、俺はロンデルトの一族とも昔からつきあいあったから、ガキの頃から知ってるんだよ。あの頃はほんとにひどい時代だったよな。ロンデルトの一族もナトの里と同じように迫害されて散り散りになったんだよ」

「……」

「なあ、リュウじい、あの頃はダリア近辺にいたんじゃなかったのか?」

 訝しげな表情を隠さないタクに、リュウは不敵に笑って見せる。

「俺は行商人だぞ。世界中どこへでもいくさ」

 タツはため息をついた。リュウはそもそもが謎の多い人物である。一族の人間ではないようなのに一族のことに詳しいのも、父や母たちが信頼していたのも、謎である。本人になぜかのかと聞いても「縁が深いから」としか答えない。それがどういう縁であるのかまでは決して説明しようとはしないのだ。

 リュウのことを尋ねても話は進まない。そう判断したタツは、メイに向き直った。

「なあ…メイ」

「気安く呼び捨てにしないで」

「じゃあ、メイさん?」

 たとえむっとしても、こういうときタツは争わない。

「一族ってことは、あんたもパワーが使えるんだろ?」

「…ええ」

「何ができるんだ?攻撃系か?防御系か?」

 タツのことをじっと見て、それから目をそらしてメイはぼそりと答えた。

「…テレパシー。あと防御がちょっと」

「テレパシー?珍しいな。複数の能力持ってるのも珍しいけど」

 タクが思わず声を上げた。

「珍しいの?」

 ユリが無邪気に問い返す。

「ああ、そうか、あんまり説明してなかったな。パワーってのはさ、なんでもできるわけじゃなくって、人それぞれタイプというか、できることが違うんだよ。だから俺は防御系、タクは攻撃系、っていう感じでさ。大抵の人は一種類の力で、だからこそチームで動くのが基本とされてきたわけなんだけど」

「へえ、そうなんだ」

「大概は攻撃か防御かのどっちかに分かれるんだけど、稀にもっと別のことをできる人がいるんだ。テレパシーとか、瞬間移動とか」

「へえー!」

「何この子、そんなことも知らないの?一族じゃないの?」

 メイが不審げな顔になる。

「まあ、一族の村で育ったんだけど、小さい頃に村を離れたからな。パワーのことはよく知らないままだったんだよ」

 タツがフォローを入れた。

「あーそうだ、どうせなら一緒に旅したらどうだ?メイも組織を探しているんだろ」

 リュウがのんびりと提案した。

「え?」

「女の一人旅で無理するよりさ、こんなんでも男手あった方が何かと便利だぞ。いるだけで用心になるし」

「「冗談じゃない」」

 タクとメイの声がかぶった。二人は一瞬にらみ合い、恐ろしく不機嫌な顔をしてそっぽを向いた。

「ったく、メイも十八にもなって子供っぽいこと言うなよ。危ない目に遭ったばかりだろ」

 その様子を見てリュウが苦笑する。

「組織を探してるって?もしかして一族の生き残りの組織のことですか?」

 タツはそんな争いには見向きもせずにリュウの言葉をしっかりつかまえていた。

「そうだよ。お前たちと同じ目的で旅してるんだから、一緒に行った方が効率いいだろ」

「そういえばリュウじい、ずっと聞こうと思っていたんだけど、ユリが鍵になるっていうのはどういう意味なんだ?」

 タツの鋭い突っ込みを、リュウは一瞬のうちに無視した。

「あー、腹いっぱいになった。じゃ、俺はそろそろ行くかな」

「リュウじい!」

「じゃ、仲良くやれよ」

 太鼓腹を抱えているとは思えない素早い動きでリュウは人並みにまぎれてしまった。

「くそう…逃げられた」

 タツが悔しがっていると、メイもさっさと席を立った。

「私ももう行くから。言っておくけど、一緒に旅する気はないからね」

「へん、こっちだって望んじゃいないよ」

「ちょっとタク!」

 ユリは非難の声を上げたが、メイはさっさと人込みに紛れてしまった。

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