第65話

「あいつら…!」

 怒りにまかせてタクが後を追おうとしたが、ユリが止めた。

「いいよ、タク。もうやめて」

「そうだな、これ以上関わらない方がいい」

 タツも青ざめたままだった。

「ユリ、ほんとに大丈夫か?怪我しなかったか?」

「うん、大丈夫…。ちょっと苦しかっただけ」

「怖かっただろ。ごめんな、俺たちが油断してた」

 タツが抱きしめるとユリの眼から涙があふれ出した。

「…うっく…」

「もう大丈夫だ。悪かった、もうあんな危ない目にあわせたりしないから」

 タツが優しく頭をなでた。


「それにしても、あの男と女…腹が立つな」

 宿に戻って一息ついてから、まだ怒りの収まらないタクがこぼした。

「あの女の人は悪いんじゃないと思う…。多分あの人たちに脅されてお金盗ってたんじゃないかな」

 まだ顔色の悪いユリが言った。

「俺もそう思う。あいつら、あの女のことも殴っていたし」

「それに…あの女の人、一度助けてくれたことがあるの」

「助けてもらった?」

 タクに問い返されて、ユリはしまったという表情になる。

「えっと、ちょっとお風呂で滑って転んじゃったときひっぱり上げてくれたの」

「なんだぁ?危ないなぁ、風呂場でこけてたのか?」

「んーちょっとその…ね、うっかりと」

「…お前なぁ…」

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