第64話

「ちょっとなによ、いきなり!」

「逃げておいて何言うんだ、お前!風呂場でユリの財布を取っただろう!」

「知らないわよ、そんなの!」

「さっき札を抜いて財布捨てたところ見たんだよ!」

「どこに証拠があるっていう…」

「この札かな」

 追いついてきたタツが悠々と近づいて女の懐から札を取りだした。丁度二万ラウン、ユリの財布に入っていた額と同じだった。蒼白な顔をしているユリはしっかりと茶色い財布を握り締めていた。

「そのお札があの子のものだって証拠がどこに…」

「往生際が悪いな。さっさと認めろよ」

 タクが呆れてさらに手首を締め上げると、女は苦痛の声を上げた。

「タク!」

 その時ユリの悲鳴が聞こえた。振り返ると、大男が二人いて、ユリを腕に抱えていた。

「な…!」

「おいおい、兄ちゃんら、うちの新入りをいじめてんのかい?だったら、この可愛い子を代わりにもらっていちゃうぜ?」

 いかにもガラの悪そうな男がユリの首を締め上げる。

「…ケホッ…!」

「ユリ!やめろ、離せよ!」

「ならそっちも離せ」

「…チッ」

 タクは舌打ちしてメイを解放した。青ざめた顔でたちあがったメイの手を、もう一人の男がつかんだ。

「おめえも、ドジ踏みやがって。手がかかる奴だな」

「…!」

 いきなり頬を殴られたメイがその場に倒れる。

「…お前…!何するんだよ…!」

 タクが気色ばんだ。

「おい、そこの兄ちゃん、その金こっちに寄越せ。そしたらこの嬢ちゃんを返してやるから」

「何を言って…!これはそいつが盗んだ金だぞ!」

「おっと…そんなこと言ったら…こんな細い嬢ちゃんなんか、すぐに骨折れちゃいそうだぜ?」

「いや…!」

 大男は片手でユリの首を締め上げたまま、もう一方の手でユリの右腕を絞り上げた。

「…ほら、やるよ」

 その様子を見たタツが金を放り投げる。メイを殴っていた男がそれを拾い上げて確認すると、ユリを抱えている大男に頷いた。するとようやく大男はユリを離した。

「ユリ!大丈夫か!」

 タツが地面に投げ出されてせき込んでいるユリに駆け寄って抱き起こした。ユリが青ざめたまま頷いた。

「おら、早くしろ」

 男たちは地面に座り込んでしまっていたメイの手首をつかんで乱暴に立たせ、路地裏に消えていった。

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