第63話

それからすっかり気落ちしてしまったユリを励ましながら、一行は食事を取りにいくことにした。素朴だが心のこもった料理を出す店で、旅の貧しい食事に慣れていた身にはかなり嬉しいものであった。ユリも少し元気を取り戻したようだ。


「酒が飲める店とかもいろいろあるけど、今日はもう宿に戻るか?着いたばっかりだしな」

「そうだな」

 三人が宿に戻る近道をしようと裏通りに差し掛かった時、前を歩く女性を見てユリが小さく声を上げた。

「あれ、あの人…」

「知ってる人か?」

「うん、さっきお風呂場で…」

「…しっ!」

 タツが制する。女は素早く辺りを見回して、さっと何かを取りだして店の裏に投げ捨てた。ユリが息をのんだ。二人にもそれが何かすぐにわかった。ユリの財布だったのだ。


「おい、お前!待て!」

 タクが叫ぶや否やダッシュをかけた。驚いた女が振り返り、舌打ちをして踵を返した。

「待て、こら!」

 タクはかなり足が速いが、女もなかなかのすばしこさで逃げ回った。追いかけようとしたユリをタツが制した。

「お前は走っちゃだめだ。タクに任せよう」

「でも…」

「大丈夫さ。あいつは足が速いのが軍でも取り柄だったんだから」

 タツの言葉通り、タクは女を捕まえて手首をひねっていた。周りの人が何事かと振り返っている。

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