第55話
「あ、タク、血が出てる」
タクから離れたユリがそう言ってタクの腕に手を伸ばした。
「あ?ああ、かすり傷だよ、大丈夫」
「消毒しとかないと」
ようやく自分を取り戻したユリが、カバンを開いて消毒薬を出した。
「いって、しみるなあ」
「我慢しなきゃ」
笑いながらユリは手早く手当てをした。
「ユリがいてくれると、怪我しても心強いな」
タツが言うと、ユリはほほを染めた。
「私もこれしか、能がないから」
「はは、みんなの能力合わせりゃいいってことだな、それじゃ」
皆が笑った。雨はもう、止んでいた。
冷たい雨に濡れたのがいけなかったのか、魔物に出会ったショックが大きかったのか、ユリはその夜熱を出した。
気がついたのはタクだった。夜半に用を足しにテントの外に出て戻った時、寝入ったはずのユリの息が苦しそうになっていることに気がついたのだ。
「ユリ?どうした、大丈夫か」
そっと近づいて声を駆けると、ユリは荒い息で頷いた。
「平気…」
「って感じじゃないぞ、全然」
額に手を当てたタクの表情が険しくなる。この間より、ずっと高熱だったのだ。
「大きい、声…出しちゃ、タツ兄起こしちゃう」
「馬鹿、そんな場合じゃないだろう」
「だいじょ…ぶ、慣れてる…から。注射、したら…治る」
「注射ってお前…」
「カバン…、取って?」
ふらつく身体をタクが支え、何とか起き上がったユリは震える指で鍵を開ける。中から注射器と薬瓶を取り出して薬液を吸い上げると、消毒液を浸した脱脂綿でさっと腕を拭いて無造作に注射針をつきさした。
思わずタクは顔をしかめたが、ユリは慣れたしぐさで注射を終えて息をつく。
「ふう…これで、朝には、下がるから」
崩れ落ちるように横になって弱々しい笑顔を見せるユリに、タクは何も言えず、ただ頷いた。
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