第48話
翌日は皆で行動することにした。まず午前中に診療所でミサの様子を見て、その後皆で市を見に行った。三人で行動しているのがやはり一番しっくりいく。いつもタツとタクはその土地の珍しい物を買って次の土地で売って路銀を得ていた。そのための品物を見るためでもあったのだが、ユリは目をキラキラさせて品物に見入っていた。
「うわー、きれい!」
ガラス細工を目にして歓声をあげている。
「すごい、これ手作りなんですか?」
「そうだよ、きれいだろ」
「へえ~」
ユリが感嘆の声をあげると、隣にタツが座り込んだ。
「どれ、ほお、さすがですね。ガラス細工はロンデルトが最高という噂は本当なんですね」
「そうとも」
タツがほめると、商人は胸を張った。
「どうだい、ひとつ買っていかないかい」
「うーん、そうですね、できたら他の国で高く売れるような物がうれしいんですがね。でもガラスは壊れやすいからな。持ち歩くにはちょっと、ねえ」
タツが渋って見せると、商人が身を乗り出した。
「兄さんたち行商人なのかい?それだったら、アクセサリーがお勧めだね。ほら、こういう小粒の奴なら割れることも少ないし、小さいから持ち運びもしやすいよ。指輪もペンダントもあるよ」
そう言って商人はいくつものアクセサリーを並べてみせる。それを見てユリがまた感嘆の声をあげた。
「あれ、これと似たの、さっきもっと安く売っていたなぁ」
値札を見たタクが抜け目なく言うと、商人の眼がすっと鋭くなる。
「ううん?そうかい、これは高級品だからね」
「いや、残念だな。もうちょっと話のわかる方かと…」
腰をあげかけたタツに、慌てて商人が声をかけた。
「わかった、わかった!ちょっと勉強させてもらうよ」
それを聞いたタツがにっこりと笑いかける。
「それじゃあ、これと、それと、それ、下さい。値段は?」
苦渋の表情を浮かべて商人がそろばんをはじいてみせると、タツは一度首を振る。
「じゃあ、これも一つ買いますから、もうちょっと引いて下さいよ」
それを聞いた商人はさらに苦悶の表情でそろばんをはじく。ようやくタツは頷いた。壊れないように箱に梱包する商人から、タツは最後に買った瑠璃色のペンダントだけを先に受け取った。
「ほれ、ユリ、後ろ向いてみな」
「え?」
ユリが後ろを向くと、その首にタツがペンダントをかけてやる。
「これはユリにやるよ」
「え、いいの?」
「ああ、たまにはいいだろ。旅の記念に」
「ありがとう!」
ユリがはじけるような笑顔を見せた。それを見て商人までもが目を細めた。
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