第47話

「あれえ?タク、お前なにやってんだよ、こんなとこで。一人か?ユリは?」

 出し抜けに声をかけられた。タツだった。

「なんだタツか」

「なにやってたんだ?」

「いや、ちょっと散歩」

「一人で?」

「ユリは宿で報告書を書くって言ってたからさ。邪魔しても悪いし」

 その言葉を聞いてタツが眉をひそめる。

「お前なんかあった?」

「え?」

「お前らしくないぞ、なんか」

「なんでもないよ」

 さすがに付き合いが長いだけあって、タツは鋭い。動揺を隠してタクは笑った。

「そっちは?成果あったのか?」

「んー、まあな。まだ不確かではあるけど一応。待ち合わせには早いけど、もう戻るか。あまり一人にしておくのもよくないだろう」

「大丈夫だよ、子どもじゃないんだから」

 そういうと、またタツがじっと見てきた。

「なんだよ」

「やっぱり今日お前変だぞ?いつもならユリのそばを離れたがらないくせに」

 なんでもないよ、を許さない目だ。タクはため息をついた。

「大したことじゃないんだよ。ちょっと面白くなかっただけさ」

「何が」

「いや、ユリがあまりに有能な医者なもんだからさ。みんなに頼られてて、なんていうか、自分はそれに比べてーみたいな?」

「あほらしい」

 タダの一言でタツは切って捨てて見せた。

「お前とユリはそもそもの出来が違うし方向性も違うだろ。何をいまさら比べてるんだ」

「そうだけど」

 完全にふてくされたタクだったが、あまりにあっさり言われると腹を立てるのもばかばかしくなってきた。

「いいから、帰るぞ」

 さっさとタツは前を歩く。仕方のない風を装いながら、どこかほっとしてタクも従った。


「おかえり、早かったね」

 ユリは何事もなかったかのように二人を迎えた。丁度報告書も仕上がったようだ。

「おう、ただいま」

 タクもいつもどおりに笑うことができた。


「昼間、三番街の食堂で聞いてきたことなんだけどさ」

 お茶をすすりながら、タツが話を切り出した。

「やっぱり、西の方に行くのがいいようだ。正確にいえば西北西というのかな。このあたりの地域はロンデルトによってダリア以上にひどい迫害があったらしい。それで、そういう魔の力を持っていると言われていた一族は散り散りになって西に追われていったらしい」

「へえ」

「そしてさ、はるか西の方ではそういう人たちが集まって秘密組織みたいになっている場所があるんじゃないかっていう噂を聞いた人もいた。ここよりは大分西のことだから、その人もよく知らないって言っていたから、ガセネタかもしれないけど」

「でも本当だとしたら、すごいことだね」

「うん。ダリアとロンデルトの中間部はあまり開発されてないし、小国が多くて隠れやすいからありえない話ではないと思うんだ。親父が昔言っていた話では、全世界に同じような力を持った人たちはいるはずなんだそうだ。だから迫害された人たちが、より迫害の少ない地域に集まって結集してるんじゃないかと思って」

「でも噂に過ぎないから、あまり具体的じゃないな。西といっても広い地域なんだし」

「そう。だからもう少し情報を集めてから行くのもいいと思うんだ。どうかな?」

「そうだな、もう数日ロンデルトに滞在するか」

「実は、宿のご主人が何日でもタダで泊まっていいっておっしゃっているの。だからお金は心配しないでいいって」

 ユリが言うと、タツの眼が輝いた。

「ほんとか?そうか、妹さんの件はうまくいったんだな?」

「うん。肺炎だったんだけど、熱が下がって持ち直したからたぶん大丈夫だと思う。でもできたら経過はもう二,三日は診てあげたいところだし」

「そうか。じゃあ、もうちょっと滞在するか。出発の準備とか他で売る品の仕入れとかもあるから、目処は三,四日ってとこかな」

 タツの言葉にみんな頷いた

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