第44話
宿の主人は妹のそばについていると言い、タクはいても仕方がないのでユリたちについて行った。
テオとユリは何やら熱心に互い仕事の状態や病気について話し込んでいたが、タクにはさっぱりわからなかった。タクからみれば、ロンデルトの医療は十分に進んだものであったが、アスクラピアはさらに上らしい。テオはしきりに感心しては、
「私もぜひ研修に行ってみたいものだ!」
と繰り返していた。
タクは退屈で、それ以上に言いようのない疎外感のようなものを感じていた。
一時間後、ミサの熱は下がって来ていた。これは劇的なことらしい。宿の主人はいたく感激し、何度も頭を下げた。それからさらに何人かの患者を診察し、ユリは診療所を後にした。
「いやあ、久しぶりに診察すると疲れるわね」
遅い昼食を取るために寄った食堂で、肩をコキコキと回しながらユリが息をついた。
「すげえな、ユリ。頼りにされていたじゃないか」
タクの声にはどことなく力が入らない。
「そりゃあこれが仕事だからね。でも本当に難しい病気は私の手には負えないわ。得意分野や苦手分野もあるし、なんでもってわけにはいかないもの」
「それでも、あの医者よりはできるんだろ?」
「一概には言えないわ。確かにアスクラピアの医学は進んでいるけれど、私がそれをすべて身につけているわけではないし、あそこの患者さんでも私にはよくわからない病気の人はいたもの。一人で診療所を切り盛りするのは大変なことだと思うわ」
「ふうん」
気のない返事をしたのが伝わったのか、ユリが訝しげにタクをみる。
「なあに?何か気に障った?」
「なんでもないよ」
タクは笑って見せたが、ユリの表情はまだ和らがない。黙々と目の前のパスタを口に入れ始めた。
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