第39話

「どうした?ユリ、疲れたか?」

 最初に気がついたのは手を握っていたタクだった。歩く速度が落ちていた。

「ん、平気」

 ユリはそう言ったが、顔色は先ほどよりも明らかに悪かった。

「大丈夫か?今日は一度引き揚げよう」

 すでに夕刻が近づいていた。市は最後のにぎわいを見せている。

「ごめん、ちょっと人に酔ったかも」

「混んでいたしな。悪い、もっと早くに気付けばよかった」

 宿屋までは少し距離があった。ユリは歩けると言い張ったが、結局タクが無理やり背負って歩いた。



「おや、お客さん、大丈夫ですか?医者を呼びましょうか?」

 宿屋の主人は、背負われて帰ってきたユリを見てそう声をかけた。

「いえ、大丈夫です。薬は、ありますから」

 タクの背中でユリが答える。少し息が上がっていた。


「ごめんね、迷惑かけちゃって。興奮しすぎちゃったかな」

 ベッドの上に横たわって、ユリはすまなそうに二人を見上げた。

「気にするなって。慣れない人込みだし、旅の疲れも出たんだろ」

 そう言ってタツはユリの額に手を当てる。

「熱、あるな」

「大丈夫、いつものことだから。疲れると今でも熱が出ちゃうんだよね。薬を飲んで寝たらすぐ治るから。私のカバン、取ってもらえる?」

 ユリはカバンにかかっていた鍵を開け、薬の粒を何粒か取り出して飲み込んだ。その様子を二人が心配そうに見守る。

「そんな顔しないで。大丈夫だから」

 ユリはまた微笑んで見せる。

「何か食べるか?」

「んー…今はいいや。ちょっと寝るね」

「わかった。お休み」

 タクが布団をかけてやる。余程疲れていたのだろう。ユリはすぐに眠りに落ちていった。タツが濡らしたタオルを額に乗せた。

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