第29話

「おばば様…。本当によかったのでしょうか…」

 アリスの声は、憂いを含んだものだった。

「これがきっと,さだめなんだよ」

「でも、旅はきっと厳しいものになるのでしょう。あの子の身体では…」

「あの子ももう一人前の医者だ。自分の身体の面倒は,自分で見られるだろうさ」

 おばばは目を細めて,小さくなる背中を追った。アリスの目もそれを追う。帽子の下で束ねられた銀髪が,光を反射して輝いていた。

「結局…女は好きな男のそばにいるのが,一番幸せなんだよ。きっとね」

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