第28話
それからの二日間は、慌ただしく過ぎた。ユリは仕事の引き継ぎにギリギリまで飛び回り、タクとタツは旅立ちの準備に大わらわだった。おばば様の許可が出たことで、アリスは何も言わなくなっていたが、ユリとの間には、おそらく何らかのやり取りがあったに違いなかった。
そして、旅立ちの朝を迎えた。
「ユリ…。やはり決心は揺るがないのだね」
「はい,申し訳ありません,おばば様…。散々お世話になりながら,恩返しもできずに…」
「もう帰ってこないかのような物言いはするもんじゃないよ。それに謝るこたあないさ。自分の人生だ,悔いのないように生きるのがいいさ」
「おばば様…」
「だがね,ユリ」
老婆のしわだらけの手がユリの手を包む。
「悔いのないように生きてほしいが,あんまり無茶ばかりしちゃいけないよ。わたしは,お前が無駄に命を散らすのなど見たくはないからね」
「はい…。ありがとうございます」
双方の目に涙が光っていた。
「いっておいで,ユリ。また顔を見せておくれ。体を大事にな」
「ありがとうございます。おばば様も,お体に気をつけて…。いってまいります」
深く一礼をして,ユリは旅立った。見送る者たちに笑顔を残して。
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