第27話

「おばば様、この二人が旅の同行者です。私の幼馴染で、タツとタクといいます」

「はっはじめまして」

 二人は慌てて頭を下げた。

「ふむ」

 三人の正面に立った老婆は、年老いてはいてもスッと背筋が伸び、白衣の襟もピンと決まっていた。

「話は聞いている。それでそなたらは、どうしてユリを旅に連れて行きたいのだね」

 ゆっくりとした、しかし有無は言わせない声だった。

「そっそれは…」

 タツは思わずどもってしまった。ユリが手を握ってくるのがわかった。

「俺、いや、私たちは、自分たちの故郷を迫害で失くしているんです。一族ゆかりの者たちが世界にはまだ生き残っていることを知って、その人たちを探す旅をしようと思っています。ユリも同じ故郷で育った幼馴染なので…一緒に行きたいと思い、誘いに来ました」

「ふむ」

 何とか言い終わって息をついているタツを、なおも老婆は厳しい目で見据えている。

「そなたは、一族ゆかりの者とやらを見つけて、どうするつもりなんだい」

「え…」

「会って、そしてその後は?」

「そ…れは…」

「考えていないのかい?」

「…いえ…まだ、見つけてもいないうちから、大望に過ぎるとは思っているのですが…。同じ一族の者と結集して、故郷を滅ぼされた仇を討ちたいと思っています」

「ほお…」

 老婆が目をすぼめる。ユリも少し驚いた顔をしてタツの顔を見ていた。この前はそこまでの話はしていなかった。

「…その仇とは一体誰なのだい?」

「まだ、わかりません。でも、それも旅の間にわかることだと思います」

「…それでその仇を討つことに、なぜユリが必要なんだね?ユリは同じ一族ではないのに?」

「な…んでそれを…」

「見りゃわかるわいな。それで、なぜユリが必要なんだね?」

「そ…れは、わからないですけど、必要なのかどうかも…。ただ、ある人に言われたのは確かです」

「ある人とは?」

「リュウじい…里が滅んだ時に俺たちを助けてくれた人で、…ユリをここにやろうと言いだした人でもあります」

「ふん。リュウね…」

 タツはどうしても老婆から眼をそらすことができなかった。ユリにまだ言うつもりがなかったことまで、すべて言わされているような気がした。

「それで、言われたからユリを連れに来た、そういうことかい?」

「それは…」

 タツが言い淀んだ時、タクが一歩前に出た。

「俺が、会いたいと言ったんです。ユリに」

「タク…?」

 固まっていたユリが顔をあげた。

「リュウじいに言われたのは確かです。でも、俺は、単純にユリに会いたかったんです。旅に出るのなら、一緒に行きたいと思ったんです。だから、迎えに来ました」

「…ここまで何カ月もかけて、わざわざ迎えに来たとな?ただ会いたかったから?」

「はい」

 老婆は正面からタクを見据えた。何秒かの間、時が止まった。

「はっ」

 ふいに老婆が息を吐いた。笑ったようだった。

「いいコンビだよ、あんたたちはね。この私を前にして同じことを言うとは」

「何の話ですか?」

「ちょっ…おばば様!」

 タクの声と、ユリの慌てた声がかぶった。

「ユリもね。言ったんだよ、なぜ行くのかと聞いたら。ただあんたたちと一緒にいたいからだってさ。色々えらそうなこと書いた企画書まで提出してるのにね」

「ユリ…?」

「ふん、まあいい、わかった。許可しよう」

「え?」

 あまりにもあっさりした老婆の言葉に、三人はぽかんと口を開けた。

「その馬鹿さ加減に免じて、許可してやるって言っているんだよ。ユリも思えば、随分狭い世界で暮らしてきているからね。広い世界を見ることは悪いことではないだろう。ただね、いくつか条件はつけるから、それは守るように」

「はいっ、ありがとうございます!」

 ユリの顔がぱっと輝いた。

「い、いいんですか?」

 タクとタツの方がついていけずにうろたえる。

「いいって言っているだろうが。この頑固娘は駄目だと言っても諦めることはないだろうしね。ただね、この子は普通の体じゃないんだから、くれぐれも無理はさせないように」

「はっはい、ありがとうございます!」

 二人もはじかれたように頭を下げた。

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