第26話

その日は忙しくて会えないとユリから連絡が入り、アスクラピアにいられる日々の半分はあっという間に過ぎてしまった。

 アスクラピアの五日目、宿のタクたちの元に、ユリから再び連絡が入った。急で悪いが、病院まで来てもらいたいというものだった。

 急いで二人が病院に行くと、白衣姿のユリが待っていた。

「こっちこっち、ごめんね、急に」

「いや、こっちは暇だから」

「実はちょっと、審査に手間取っちゃって。同行者としてタツ兄たちにも会ってもらわないといけない人がいるの」

「いいけど、誰に?」

 問われて、ユリの顔がちょっと引きつったように見えた。

「おばば様」

「おばば様?」

 この近代的な病院に似合わぬ呼び名に、タクが変な顔になる。

「もちろん、あだ名なんだけど。私たちはみんなそう呼んでる。特別奨学患者の世話役。母親代わりの超スパルタ先生」

「え…あの注射をさせたって言ってた人か?」

「うん。あの人を説得できたら後はなんとかなるんだけど。話をしたら、二人に会ってから考えるって言われたの。…あの人にだけは私も逆らえないのよ」

「…それで俺たちは何したらいいんだ?」

「質問されたことには答えて、思う通りでいいから。あの人の前では何を取り繕っても無駄だから、ありのままにいてくれたらいいわ。嘘つくと余計に悪い方に進むから」

「…なんかすごそうだな」

「こんな恰好で大丈夫だろうか…」

 タクが急に服装を気にしだしたが、後の祭りだ。

「そういう見た目は気にしない人だから大丈夫。さあ、こっち」

 ユリは早足で廊下を進んでいき、病院のかなり奥の部屋に向かっていった。突き当たりに、ひときわ重厚な扉があった。

「ここよ」

 いつになく緊張しているユリを見て、二人もごくりと唾を飲み込んだ。

「ユリです、失礼します」

「お入り」

 中から聞こえてきたのは、威厳に満ちた声だった。入った瞬間、頭の先からつま先までみられたような気に、タクはなった。

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