第25話
「…なあ、どうするよ?タツ…」
去っていくアリスを見送って、タクは茫然とつぶやいた。
「……」
タツもすぐには返事ができなかった。昨日、一緒に行くつもりだとユリが言ってくれたことに、二人ともすっかり浮かれていたのだ。
「一緒に…連れていきたいけど、でも、そのことでまたあんな風になっちゃうんだとしたら…」
タクは自分の腕を見つめていた。あの日、この腕に崩れ落ちてきた小さな体。散らばる真っ赤な実と、青白い顔をして動かなくなった姿。忘れられるはずがなかった。
「…そうだな。俺たち、簡単に考えすぎていたな。アスクラピアに来たら、病気はすっかり良くなるもんだと思い込んでいたものな…」
タツも苦渋に満ちた顔をしていた。
「それに俺ら、単純にユリに会えたらいいって思ってやってきたけど…。リュウじいの言っていたこと、どういうことなんだろうな?ユリが鍵になるって…」
「わからないな…。ユリはやっぱりパワーのことすら知らなかったし、里の生まれでもないし…連れていくのは単に巻き込むだけのような気はする。だけどリュウじいの口ぶりは、いかにもユリが重要人物みたいな感じだったし…」
タクが首をひねる。
「リュウじいはそもそも、ユリの体のこと、どのくらい知っていたんだろう?生きていること前提で話している感じはしたけど」
「わからんな、あの人は。神出鬼没だから、何らかの方法で消息はつかんでいたんだろうけど、どこまで詳しいことを知ってるかはわからない。今でも完全に治ったとは言えないなんて、教えてくれなかったもんな…」
「っていうか、ユリも言ってなかったろ。…俺たちには黙ってついてくるつもりだったんだろうか」
「あー……すっごいありそうだな。あいつ昔から具合悪くても隠してついてこようとしたからな」
思い当たることが多すぎて、二人は顔を見合わせて苦笑する。
「どうする?タツ」
「うーん、でもまあ、今はまだ再発しているわけではないんだし、俺たちが配慮すればいいことなのかもしれない。ユリの決断に任せるしかないな」
「そうだな…。ユリ次第だな。来るとしたら、無理させないように気をつけるしかないか」
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