第22話

「さてと」

 全員のお腹も満ちた頃、アリスは上品に口をふき、口を開いた。

「今日私もお邪魔したのは、お話しておきたいことがあったからなんです」

「は、はい」

 急に眼光が鋭くなったアリスに気圧されたように、二人は背筋を伸ばした。

「ユリは自分じゃ言えないだろうから、私が代わりに言いますけど。結論から言うと、ユリを旅に連れ出すなんて言語道断です。それも、外国になんて」

「……え……」

 あまりにもきっぱりと拒否されて、タクらは声も出せない。

「遠い異国にいたあなたたちに、アスクラピアのことも、特別奨学患者のこともよくわからないでしょうけど、私たちの体調や日常は国によって厳重に管理されていますし、ユリには担当患者だっているんです。国を離れるなんて無理です」

「それは…わかるけど…」

「けど、じゃないです!」

 突然、バンとテーブルをたたくアリスに、二人は飛び上がる。

「第一、国外を旅するなんて、荒れた危険な土地を通らないといけないでしょう。山間部はいまだに魔物めいたものすら出るというじゃないですか。飛行船でも機関車でもなく、そんなところを徒歩でユリに旅させるなんて、考えられない!しかもそんなところで安宿に泊まったり、あまつさえ野宿までするんでしょう?ますます考えられない!」

「それは、俺たちが守るから…」

 タクの声はアリスの大声に一気にかき消される。

「何言ってんですか!何かあったらどうするんですか!」

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