第12話
「しかしなぁ…いくら産業革命があったからといって、俺らのいた国とはずいぶん違うよなぁ…このへんは」
わけのわからない機械に通されたり、初めて見る注射器で血を抜かれたりと散々な目にあった末にようやく宿舎に戻ることを許され、タクがぼやいた。
「まあなぁ。こんな…シャワーっていうんだっけ?こんな仕組みもダリア近辺の国にはなかったな。こんな便利なものがあるなんて」
「なんかなぁ、世界って広いっていうか、異世界に来たみたいだよな。こんなに国ごとに文化や技術に差があっちゃ、頭がついてかねえや。同じ人間の暮らしとは思えないね」
「きっとあの蒸気機関車や飛行船がもっと発達してきたら、世界はそういう技術をもった国が全部支配するんじゃないか。国同士が遠いから今はまだ広がらないでいるけど」
「そうだな。ダリアなんて目じゃねえな、きっと。そのうちロンデルトが進出してきたら一発でアウトだな。あの王様も威張っていられるのは今のうちだ」
「そういうことだな」
洗い髪をガシガシと乾かしながら、タクは遠くを見る。
「なあ、ほんとにいると思うか?ユリはまだこの国に」
問われたタツの口調も迷いがないとは言い難いものであった。
「いるさ、きっと…。そう簡単に、死ぬもんか」
「だからさぁ、タツ、お前案外悲観論だよな」
苦笑したタクが肩をたたく。
「俺が言いたかったのはさ、もう違う国に引っ越しちまったとかいうことはないかってことだよ」
「ああ、…なんだ」
拍子抜けしたタツも苦笑いする。
「その可能性はゼロじゃないけど、ユリが医者になっていたとしたら、この国にいる確率は高いだろうよ。特別奨学患者ってのは、いろいろと義務を伴うものらしいから。国を離れるにはいろいろ面倒だって聞いたぜ」
「そうなのか?でもそれだと、会えても俺たちと一緒に来られないじゃないか」
「それはなぁ、そうだけど。でも会ってみて説得次第じゃないのか」
「…タツ、お前変なとこで急に楽観論者になるなぁ」
普段と立場が逆転していることを感じながら、タクは固いベッドに寝転がる。気持ちはわかるのだ。しっかり者のタツだって、ユリに会えるかもしれないとなると、気持ちは浮つくというものだ。それはタクだって違いはない。
「十年か。どんな風になってるだろうな?」
タクの言葉が心持はずんだことを感じてか、タツがにやつく。
「そりゃー、絶世の美女に決まってるだろ。ほんとにお前の嫁に来てくれるかなぁ?」
「あっなんで知ってんだよ、そのこと!?」
顔を赤くするタクを見て、タツは笑う。
「気にすんな、もう時効だ。お前の声がでかかったから聞こえたんだよ」
「あーもう、たまんないな」
飾り気のない天井を眺めながら、二人は思いをはせる。
草のにおいのする故郷の景色と、その中で笑っていた小さな妹。
それはもう、今では見ることのかなわない景色だった。
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