第9話

出発はあわただしかった。ほんの三日の後、ユリは隣町に向けて旅立った。

 隣町といっても、丸二日かかる日程である。この里はひどく奥まった山の中に、人里から隠れるようにして存在しているのだ。リュウの大きな背中に負ぶわれて、ユリは出発した。荷物も大したものはない。おかみさんが急いで揃えた少しの着替えがあるくらいであった。

「あの子はちゃんと、選ばれるかねぇ…」

 心配そうなおかみさんに、タクがかすかな期待をこめて問いかける。

「もし選ばれなかったら、帰ってくる?」

「いや、帰ってはこないよ。それでもリュウさんが、町の病院に連れて行ってくれるってさ」

「そっか」

 タクは下を向いた。懸命に手を振っていたユリも、カーブの多い山道にすぐに見えなくなってしまった。

「きっと選ばれるさ。だって、天女の子だもの」

 ダイが大きな手を息子たちの方に置く。

「そうだね、きっと…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る