第6話
誰もいないアパートの部屋で一人、椅子に座り写真を前に溜息を吐く。
日本にいても一人で過ごしていたのだから、慣れているはずなのに、こんなにも一人が寂しいと思うのは初めてな気がする。
「寂しいより、不安なのかな……」
明日、オーナーに会いに行くことを思うと胃の辺りが痛み
溜息が止まらない。
そのせいか部屋の空気まで重くなった気がして、椅子から立ち上がり窓の縁に座る。
いつか迷惑をかけた人に謝れたらいいなと、絵を描くことを辞めてからも心の片隅でずっと思っていた。
謝罪の言葉を考える時間は十分にあったし、会わなくとも手紙に一言でも書いて送ることだって出来たはずだ。
「恩知らずって言われても仕方ないよな……」
考えていたのはその言い訳ばかり。その罰だったのか忘れようとすればするほどに、自分を傷つけた名前も顔すらも曖昧な勝手な奴等だけが心に残る。
弱さと向き合って初めて忘れようとしていたものが、どれほど大切だったのか気付く。
――彼女がいなかったらずっと気付かないままだった
笑顔で写る彼女の写真に感謝の気持ちを伝えながら笑顔を向ける。
スケッチブックを抱え偶然、雨宿りに喫茶店を訪れた。初めて特別だと思えた女性。
第一印象は迷い込んできた野良猫みたいだと不思議な感想を持ったのを覚えている。
その理由は殆ど忘れていた記憶だったが、彼女が公園で猫に囲まれて寝ている姿を見ていたからなのだが――
兎にも角にも彼女も自分の容姿に惹かれてやってきた人間の一人だと思って特別な感情などなかった。
ただ言い寄ってくる訳でもなく緊張しながら、ころころと変わる表情が面白くて僅かな興味を持った時にあのスケッチブック。
スケッチブックを開きあんな笑顔の自分を見なかったら彼女にそれ以上の感情は湧かなかっただろう。
「純粋に興味があるとは言ったけど、あれは歪んだ感情だったよな」
昔の描くこがと好きで純粋に楽しんでいた自分と重ね、ここからどう成長していくのか、同じように描けなくなる日が来るのか。
僅かだが表面だけじゃない本当の自分を見つけたら彼女はどんなふうに描き、モデルを頼んだことを悔いるんじゃないかと意地悪な気持ちもあった。
嫉妬だったのかもしれない。純粋な興味の裏側は真っ黒もいいところだ。
黒く歪んで諦めて隠している姿を、彼女はすぐに感じて描き出してしまった。
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