第6話「再生と業」

「高野さん」


駅前のカフェ。

有村智早は高野亮平からの呼び出しに答えてそこに来ていた。


「おう、有村。」

「なんですか」


声量ゴキブリで体調が悪そうに答えた。


「聞こえねえな。お前の外嫌い克服のためなんだが。」

「余計なお世話です。要件は?早く帰りたいのですが」

「はあ、わかった。まずいことになっている。」

「まずいこと、とは?」


亮平は、書類を智早にみせた。


「コードネーム、。お前なら知っているな?」

「…俺と同じハッカーの人ですよね。」

「そうだ。そいつが今、反乱を起こそうとしている。」

「反乱?」


コードネーム「カルマ」。

智早よりは衰えるが天才ハッカーの一人。本名と顔は誰も知らず、歪んだ思想を持っていると有名だ。


「能力の独り占めを目論んでいる。おれらを殺してな。」

「なるほど…、」

「ああ、あと言っていなかったが能力は複数持ちが可能だ。」

「なん…だって…??」


能力の複数持ち。

もともと能力の持つものが他の能力を持つ者の血を自身に注入すれば能力の複数持ちが可能になる。

身体が耐えられればの話だが。


「知らなかったです、その話…なんでもっと早く!」

「カルマのように独り占めするおそれがあったからな。」

「…はあ。……じゃあ待ってください、カルマは?!」

「能力を2つ持っている。」

「なああ…」


もうすでに1人犠牲者がいる、という事実を突きつけられる。


「その…能力は…?」

「まず、元々カルマが持つ『電脳』、だ。」

「それは…知ってます」

「あと、言っていなかったがあいつは組織を組んだ。」

「組織を…?!もしかして、そのメンバーは全員洗脳にかけられて…?」

「俺の憶測だがそうだな。」


「あと…、2つ目の能力だ。それが、『再生』だ。」

「再生?それって…」

「そうだな、傷つかれてもすぐ回復するって感じか。」


智早は頭を抱えて消え入りそうな声で言った。


「…どうしろっていうんですか…?」

「全部俺に任せろ。あいつらも呼ぶ。」

「あいつらって?」

だ。」

「………は?」




___________________________



「そういえば!れんれん誕生日おめでとーーー!!!!!」

「うん、ありがと…てかなんで知ってるの?言ってないよね」

「LENEの『今日お誕生日のお友達です』に載ってた。」

「ああ、そういうこと…?」

「そうなのか…、朝LENEみてねぇわ…誕生日おめでとう梶田。」


そう言われた怜が照れくさそうに


「へへ、ありがとーね、みんな」


すると先生が顔を覗き込んできた。


「へぇ、梶田くんお誕生日なんだぁ。おめでとうおめでとう」


彼はいずみ 太一たいち先生。社会科の先生で、いつも笑顔を絶やさない、イケメン先生。

白髪で、その髪は地毛らしい。


「たいたい先生ー!!」

「泉先生、ね?桜田くんは人にあだ名つけるの好きだねぇ」

「先生、ありがとうごさいます」

「うん。あとほかのクラスには入んないようにねー。バースデーボーイだからって浮かれないように」


そういって太一先生は教卓へ戻り、怜も教室に戻った。


今日の最後の授業は社会。まぁ、俺にとっちゃ寝る時間だけどなぁ。





「いずいずー!!!起きて起きてー!!」


天真爛漫な幼なじみに体を全力で揺られる。


「ん………もう終わったの、授業…。」

「おわったよー!!!」

「また寝るから帰りのHR終わったら教えて…」

「おーーーきーーーてーーー!!!!」


さっきの何倍もの力で体を揺すられる。

もはやこれ椅子から落とそうとしてる勢いだろ。


「わかったよ起きるよ」

「大変だなぁ、お前も」


甘楽が俺の机に手を置く。


「夜子は昔からこうなんだよね、底なしの元気で」


とりあえず、朝にロッカーから出した教科書を全て仕舞おうと席を立った。

たくさんの教科書を抱えて廊下に出る。


「伊澄くん、居眠りはダメじゃないか」


ロッカーを開けた瞬間、太一先生が話しかけてきた。


「眠かったので」

「眠かったので??」

「寝る子は育つって言うじゃないですか」

「うーん、まぁ居眠りはしないようにね」


そういうと、太一先生は俺らから離れた…、瞬間すっ転んだ。

太一先生がいてて…と起き上がると手に傷ができていることを確認した。

ああ…情けないなぁ、と思っていると手の傷が一瞬で治った。

いや、確実に怪我をしていたはず…。そして、確実に傷がされていた。

思考がショートして固まっていると俺を甘楽が覗き込んだ。


「どうしたぁ、伊澄。フリーズしてるけど」

「…なんでもないよ。」


そう言って俺は今のことを忘れようとさっさと教科書をロッカーにしまった。


そして、帰り道。

みんなで怜の遅れた誕生日会を開こうと話していると俺の携帯から通知音がした。


「…智早さん」


メール文には

話したいことがあるから家に来て欲しい。高野さんもいる。

とだけ。


高野さん絡みの話だろうか?そうだとするとめんどくさい気しかしないが?

みんなで顔を見合せて、智早さんの家へと向かうことにした。






「あ、いらっしゃい。ごめんね学校で疲れているだろうに。」


インターホンを鳴らすと申し訳なさそうな智早さんが出迎えた。

その横からだるそうな顔をした亮平さんが顔を出す。


「よう、伊澄。」

「あ、疫病神の亮平さん」

「りょーさん!!」


なんだその呼び名は…と苦い顔をしてから、まぁこいと家主の智早さんが言うよりはやく招く。


「早速本題にはいるが…、お前らにはその能力を使って欲しい」

「えっと……今ここでか?」

「まって俺の部屋がとんでもないことになるからやめて??違うからね?」


すると、亮平さんがなにやら紙を持ってきて俺らにみせた。


「カルマ。ハッカーのコードネームだ。」

「業ってことですか?」

「まぁな」

「ふざけた名前だな」

「待ってそれ俺にも刺さるからやめて」


どうでもいいから、と話を続けて


「こいつが、能力の独り占めを計画している。」

「能力の独り占め??」

「ああ。だから一刻も早くこいつを殺すなり焼くなり煮るなり炒めるなり二宮〇也しなければならない。」

「なんで急にジャ○ーズ出てきたんですか??」

「知らん」


こういうおじさんでも知ってるんだな………。

というか…、能力の独り占めってなに?

能力自分自身のひとつしかないのに独り占め?


「ああ、あと…悪用をしないに加え、誰にも話さないを条件に教えてやってもいい話がある。」

「え?!なになにー?!?!」


夜子が目をきらきらさせながら立ち上がった。

お前は口軽いだろうが…………


「能力は複数持ちが可能だ」

「…………………」


複数…持ち?

そんな……?心の怪盗団のリーダーみたいな??

智早さんはついに言ったか…みたいな顔してるし…

夜子たちもはぁ???みたいな顔してるし…


「混乱するのも無理ない。だか、複数持ちは体が耐えられればの話だ。つまり…」

「あの……それ僕らにしていい話…?というかそれだけですか?」

「いや?お前らにはカルマを殺してもらうと言っただろう?あ?言ってなかったか?」


殺す……?!?!俺らが?!?!


「やっぱ中学生にそんなことさせるなんて無茶ですよ!!こんなころからトラウマ植え付けられたらたまったもんじゃない!!」

「うるせぇお前は黙ってろ」

「ピャッ」


智早さんは、亮平さんに顔面を手で押さえつけられた。

少し経ってから離して、智早さんは「メガネ指紋だらけになったぁ…」と悲しそうにつぶやいた。


「有村さんは知ってたんですか?」

「なにが?」

「能力は複数持ちが出来るってこと…」

「いや、俺も昨日知ったよ」

「昨日俺がやっと話したからな。」


怜がまじかこの刑事……!?という顔をして身を引いた。


「んで…このカルマってやつだが、能力をふたつ所持している」

「そんなチートあっていいのかよ?!勝算は?!」

「わからん」

「このクソ刑事が!!」


口を慎め、と呟いて資料を入れ替える。


「まず、元々カルマが持つ『電脳』、だ。」

「電脳、洗脳ってこと?」

「いい感だな伊澄。その通りだ。」


「あと、2つ目の能力だ。それが、『再生』だ。」

「再生?」


再生?そういえば…あのときの太一先生は…。

あのとき、確実に手に怪我をしていた。が、その怪我は一瞬で治った。

あれは再生なのか?あれが再生なのか?


「どうした?伊澄」

「…ううん、なんでもない」

「まぁ、基本的に俺たちがカルマを殺すなり煮るなり二宮○也するから…、お前らは下っ端を潰してもらえればいい。」

「もう触れませんよ」

「ということで今回の軸はお前、有村だ。宜しく」


亮平さんが智早さんの肩に手をぽんと置く。

智早さんは心底嫌そうな顔をして


「まぁそんな気はしてましたけどぉ……また徹夜コースかぁ…」

「じゃ、今週の日曜に作戦決行な。」

「作戦何も立ててねぇけど?!」

「今から立てる」


本当に俺らでカルマを倒すこと出来るのか…??

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