第3話「非日常の開幕」

 朝、朝礼前。


今日から通常授業が始まることになった。

もう仲良しグループは何個もできているし、それに反してぼっちの子もいる。


「授業、やだ。」


俺は机に突っ伏してそう呟いた。

1時間目は国語。


基本、初回授業は先生の自己紹介や、授業概要シラバスを配ったりして、これから習うことについて説明をする。


俺はそれすらも億劫だった。


「いーずいず!」

「…夜子」


 重い頭をあげるとそこには幼なじみの夜子がいた。

 夜子は鈴の髪飾りを鳴らしながら俺の顔を覗き込んで微笑んだ。


「なに?嫌なことでもあった?」

「別に………」

「まぁ、もう友達なんだから話してくれよ!自由にな!」

「銀髪、じゃかしい。」

「おい伊澄、どうやって死にたい?」


 イラついた甘楽が俺の事を睨む。

 なんだよ。本当のこと言ったまでじゃん。


「ほかのクラスって不便だねぇ、おはよ。3人とも」


いつのまにかいた怜がどこからか取り出した飴を舐めながら甘楽に寄りかかる。


「お前、先生にバレたら面倒だぞ」

「いーの、別に僕がほかの教室行ったとしても何もしないでしょ。というか、あのルールよくわかんないし」

「教室に入るなルールだけじゃなくてだな……」


他のクラスのやつが他のクラスの教室に入るな、か。

小学校のころからある謎のルールだが、今でも理由がわからない。

中学生になったらわかると思っていたが、結局分からず終いになりそうだ。

通常授業も始まったし、昨日みたいにゲーセンには寄れないかな……


ゲーセン…


ゲーセン行きたい


「ね、みんな。ゲーセン行かない?」

「いーね!夜子行きたい!」

「おいまて、早々に寄り道かよ!」

「甘楽は変なところで真面目だねぇ、めんどくさいやつ。」

「お前もか梶田。死ぬか?」


甘楽と怜が軽く喧嘩になったところで、予鈴のチャイムが鳴る。

それに気づいた怜が、甘楽を煽りながら自分の教室へ戻って行った。


「梶田ーーッ!!!!!!」



_____放課後。



家から1番近いゲームセンターに来た。

学校からは結構離れているから、先生に見つかる心配もないだろう。


「伊澄、俺ゲームとかあんま得意じゃなくてな」

「甘楽が得意だろうがなかろうがどうでもいい」

「お前が俺を誘ったくせになんだその態度は」


とりあえずクレンゲームで簡単そうな台についた。

別にゲットしたところで欲しいものって言うわけじゃないし、いつもは夜子に押し、上げてたから今回は押し付ける人が2人も増えて嬉しいな。間違えた。あげる人。

俺が目をつけたのは大きいウサギのぬいぐるみ。こういうのは結構お金がかかるけど、その分面白いからな。


「こういうのは…、」


ブツブツ独り言を言いながらアームを動かす。

すると、ぬいぐるみがガタンと落ちる音がした。今回は1発だったな。我ながら完璧。


「すごお前?!1発かよ!!」

「いる?誰か」

「ほしい、いいかな」


怜が照れくさそうに出てきたので、迷いなく取ったうさぎのぬいぐるみをあげた。


「ありがとう、侑!」

「うん、さぁ次行くぞー」

「いずいず!夜子にもとってとって!!」


さんざん押付けt、ちがう。間違えた。散々夜子には取ってあげてるのによく強請れるな。

まぁ、正直嬉しい面もあるので、とりあえず猫のポーチかなにかを取ってあげた。


「侑、メダルゲームやらない?」

「メダルゲーム…」

「あら、まさかゲームが得意な伊澄様はメダルゲーム不得意でちゅか?」


メダルゲームはいやだな。というか何だこの銀髪。うざいな。ぶん殴りたい。


メダルゲームのゾーンについた…、が本当にやりたくないな。

だが、やらないとこの隣の銀髪の煽りが収まらない。

とりあえずお金をメダルに換金し、適当な台にほおりこんだ。


「…ここ」


俺がそう呟くと排出口から数倍にもなったメダルが出てきた。

やりたくない理由、そう。

メダルが出てきすぎて永遠にここから出れないし、終わらない。


「じゃ、甘楽。これ消費しといて。」

「な、…な…、な…、な…………」


甘楽は驚きすぎて動かなくなっていた。

そりゃそうだ。さっきまで煽ってた相手が想像の倍以上だからな。


「ごめん……、伊澄…」

「伊澄"様"ね。」

「伊澄様ァっ!!!」






4人で肩を並べて歩く帰り道。すでに日は落ちていて、薄暗くて不気味だ。


「景品、輸送でよかったのか?」

「なんか、お母さんに『あんた取りすぎるから困ったら輸送使っていい』って」

「理解凄いね、侑のお母さん……」

「いずいずの家はお金持ちだもんねー!」

「そうでもないけど」


くだらない話ばっかして、薄暗くなった帰り道を歩いていると妙な気分に駆られた。

なにか、体が反応している。詳しくは分からないが、頭で処理できていない。

……まずい。引き返し…………


………みんながいない。

さっきまでいたはずのみんながいない。なぜ?なにがあった?今までのあれは幻だったの?

周りをキョロキョロ見渡していると急に後ろから口を押えられた。

そこで即座に理解した。


誘拐。


声を上げることも出来ず、ただ大人と比べれば大幅に弱い力で抵抗するだけ。

誰か、助けて_________






___あれ。

生きてる。生きてるんだ。


途切れていた意識が戻る。

身体は縄で拘束されており、口もガムテで塞がれている。身動きが取れない。

ここは何かの施設みたいだ。壁はコンクリで、冷たい空気が流れる。

周りにみんなはいる。それだけで少し安心だ。

ただ、意識は戻っていないみたいでまだ眠りについている。


どうにかして、ここから出る方法を考えないといけない。

誘拐犯は、お金目当てなのか、それともなんなのか。

命だけはどうにかして欲しい。


「起きちまったか…。暴れるんじゃねえぞ!」


黒ずくめの男は、拳銃を俺に向ける。

…これはまずいな。少しでも暴れたら一発アウトだ。リセットも効かない。


「おい、色々聞きてぇからこいつのガムテ剥がさねぇ?」

「まぁそうか。大声あげんじゃねえぞ!黒髪!」


男が俺の口についているガムテを剥がす。

痛いな…。口周りがヒリヒリする。


「あの、目的はなんなんですか」


こいつらの目的はなんなのか、それさえ分かれば案外なんとかなるかもしれない。

男たちは顔を見合せて答えた。


「お前らを殺す。まぁ、場合によっちゃあ…殺さなくてもいいかもがなァ…。」

「殺す?もしかして…子供を殺すのが好き、みたいな愉快犯とかですか」

「ちげぇちげぇw、じきにわかるよ、黒髪くん」


…なにが?まだ中一になった俺に何がわかると言うんだこの人たちは。


「あの、意味がわからな」

「まぁ…近くの仲間でも起こしてな」


男は銃を構えながら俺の縄を解いて部屋の扉を閉めた。

ここは密閉空間で窓のひとつもない。強いて言えば、扉についている小さい窓だ。

…監禁だな。酷いことする大人もいるものだ。

俺はみんなの縄とガムテ取ってみんなを起こし、起きたみんなに状況説明をした。


「ゆうかい………なんで僕たちなの…」

「さぁね。俺らを殺す、とも言ってたし普通にやばい状況かも」


怜がさらに顔を曇らせる。そりゃあ怖いよな。いくら中学生になったとしても子供は子供だ。


「お前はなんでそんな冷静なんだよ!!怖くねぇのか??」

「怖い、怖いよ。でも怯えてちゃ考えることも出来ないって。」


甘楽がこいつマジかよ……という顔をして俺を見つめる。流石にあの甘楽でもこの状況はダメか。


「…夜子、もうお母さんに会えないのかなぁ…」


夜子は鈴を鳴らしながら泣きそうな声で俯いた。俺は夜子の背中を撫でて慰める。それぐらいしか、俺にはできなかった。


「どうするの、侑…。僕たちこのままなの?」

「今考えてるから…少し待って」


俺が話終わった瞬間、さっきまで背中を撫でていた夜子が苦しみ出した。


「桜田?!おい、大丈夫か?!」

「まさか誘拐されたときになにか飲まされたとか、夜子、大丈夫?」


夜子が頭を抱えて悶え出す。


「ねえ、大丈……夫…、…………夜子ちゃん…?眼が…赤…」


怜に言われてやっと気づいた。夜子の瞳が紅くなっている。


「いず、いず………、ま、って………みえ、や、やだ、いずい、ず…」

「…夜子?なにが見えるの?」


みえ……?夜子の身に何が起きてる?

夜子は俺に抱きつく。気づけば、夜子は静かになっていて寝ていた。

一体なんだったんだ?夜子に何が見え…て……


「甘楽、お前………眼…が……あか…い…」

「…え?」


俺に言われてから気づいたのか、すぐに頭を抑えだした。

どうした、どうしたんだみんなは。なにが、一体、なにが…。

扉に目をやると男がこちらを覗いてきている。

これがこいつらの目的?なにが……


「怜は大丈夫?身体に変化はない?」

「ごめん、そのずっと頭がガンガンするんだよね…」

「…え」


怜が瞬きをすると、眼はいつの間にか紅くなっていた。

みんなの眼が紅くなっている…。なにが、起きてる?そんな、能力モノの作品みたいな…………


「甘楽、甘楽はなにかある?なんか見えるとか」

「な、なにもねぇ。わかんねえよ。自分でも…。」


「…怜は?」

「いや、なにもないかな…、………夜子ちゃんの身に何が起きたの…?」

「…」


ますます分からないよ。何が起きてるの?なんで俺には………


……頭が…痛い…。脳みそを絞られている感覚だ。目の裏も熱い。まずい。甘楽はこんなのに気づかなかったのか?この激痛に?痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い________


「い、伊澄?大丈夫か?」

「かん、ら」


…収まった。もう二度と味わいたくないな。あの痛みは。


「俺は大丈夫。みんなが、大丈夫だったら」

「僕は大丈夫だよ」

「俺もなんの問題もないぞ。とりあえず桜田は…」


…今、甘楽の目が黄色くならなかったか?なんでだ?


「今、甘楽の目黄色くならなかった?」

「…へ?そうか?」


……本人は自覚なし…?怜も分からないって顔してる…。じゃあ…どういうこと…?


すると扉が開く音がする。男たちは1人それぞれ銃を構えて俺らに向ける。

…まずい。死ぬ。


「俺たちを殺すんですか」

「あァ…そうだぜ。お前らを殺す。」

「伊澄…!!」


さて、どうするか………。相手は銃だ。もう大人しく殺されるしか………


すると、両端の男が急にドタドタと倒れた。


「誘拐、監禁、殺人未遂、銃刀法違反。フルコンボだ。。」


手前の男も倒れ、なんだ…?と上を見上げると警察らしき男が銃片手に立っている。



「大丈夫だったか?お前ら。」

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