第69話

――本当に仲がいいのも考えものだよね


 こういう時の白鳥の態度を本当に見習って欲しい。興味がないからだろうけど騒がず静かに食事をしている。


 人には触れ過ぎては駄目なことだってあるんだよ! と叫んでやりたい気もしたが元彼のことで怒ったり悲しんだりすることが嫌なので、息を吐いて普通に話す。



「別れた理由は体調悪くしている動物を優先できない男だったからですよ」


「えっ?! そんな理由? それよか、実ちゃん動物なんか飼ってたっけ?」



 猿谷が誰よりも早く反応したことに、私よりも猿谷に全員の視線が集まり、その視線は私を含め全員が殺気めいたものだったのは、気のせいではない。



「なんすか?! みんな目が怖いんですけど……」



 怯えたように口元を引きつらせて苦笑いをしながら、尋ねる猿谷の隣に座る犬神が箸を置いて真剣な表情で語る。



「猿谷はペットと彼女だったら、どっちを優先する?」


「そりゃ彼女ですよ」



 一斉に吐かれた大きな溜息が猿谷を責め立てると、一人戸惑うように「なんで?」と視線を彷徨わせる。


 犬神は自分の携帯電話を取り出して猿谷の顔に押し付けるように見せた。



「こんな可愛い子が体調を崩していても家に置いてデートに行けるのか?」


「えっ、犬?」


「豆柴のエリザベートちゃんだ。可愛いだろう! そんでこれが……」



 無類の犬好きである犬神は携帯電話の画面に指を滑らせ、次々に愛犬エリザベートのベストショットを猿谷に見せる。


 こうなると話が長くなりそうなので、昼食の箸を進めつつ白鳥まで同じ反応をしたのが意外だったのでこっそり聞いてみた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る