第68話

丸いテーブル席に全員で座り、揃ったところで犬神に頂きますと声をかけて箸をのばす。


 隣に座った白鳥の様子を鯖の身をほぐしながら盗み見るが、笑顔でいることのほうが稀な男だ。


――機嫌なんぞ分からない。


 せっかく犬神に奢ってもらった定食を美味しく頂こうと、ひとまず白鳥のことは気にしないことにした。


 鯖を白ご飯に乗せて一緒に口に運ぶと空腹のお腹がキュッと食いつたように締まる。


 昼食をお腹にせっせと収めていると、隣に座る志帆が小声で話す。



「昨日、博之から連絡がきて実に新しい男がどうとか騒いでたんだけど……」



 志帆の言葉に驚いて咳き込むと、白鳥が水の入ったコップを渡してくれる。


 コップを受け取るなり中の水を一気に飲み干してホッと息を吐き、志帆の顔を凝視する。


――あのバカ男、志帆に文句を言ったのか?


 元彼の博之は志帆の友人で、飲みの席で紹介されてなんとなく付き合いはじめ、気づいた時には一緒に暮らしていた。



「なに? 実ちゃん彼氏と別れたの?」



 耳聡く聞いていた猿谷が遠慮もなくズバリと聞くのでテーブル内に変な空気が流れる。


 大きなお世話でお前に関係ないだろうとは思うが、別に隠すほどのことでもないので打ち明けた。



「一週間前くらいにね……」


「そうなの?! なんで? 原因は……浮気とか?!」


「ちょっと猿ちゃん! 少しは実の心情を察してあげて」


「桃屋にしては結構長いこと続いてた、あの軽そうな男だろ? 浮気されたのか?」



 志帆のフォローも虚しく犬神までもが乗っかって来てしまう始末。

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