第66話
「桃屋はB定食か……それじゃ俺はA定食の生姜焼きにするか」
「俺もA定食!」
「私は狐うどんで」
犬神が券売機にお札を入れると横から猿谷と志帆がボタンを押す。
「あっ! お前らな……奢るのは桃屋だけって言っただろう」
溜息をつきながらも仕方がないともう一枚、札を券売機に入れる。
自分の分と私の食券を買い終わると、犬神は白鳥にも声をかける。
「白鳥はどれ食うんだ? まったくお前らちゃんと働けよ!」
文句を言いながらも全員分の昼食を奢ってくれるらしい犬神に猿谷と志帆は笑顔で喜ぶ。
だが、白鳥は笑顔を見せることなく律儀と言うのか可愛げが無いと言うのか犬神の厚意をきっぱりと断ってしまう。
「スワン君は肉と魚どっちが好き?」
「どちらかと言えば魚です」
「犬神さん。B定食追加でお願いします」
白鳥の代わりに私が注文すると、白鳥は困ったような表情をして食券を買う犬神を見て、予想通りと言うか慌てたように財布を出してお金を犬神に渡した。
「自分の分は払います!」
「白鳥よ……たまには年長者に甘えることを覚えたほうがいいぞ」
「変な借りをつくるのが嫌なだけです」
――可愛く無い方だ
苦笑いをしながら白鳥の肩をポンと叩いて、私の奢りでは無いけど大丈夫だと言ってみるが不満気に睨まれてしまう。
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