第62話

鬼沢の姿が見えなくなったのを確認して、小声で犬神に改めて声をかける。



「手伝いどうしますか?」


「悪いな……いま印刷してるから誤字チェックしてもらっていいか」


「了解です!」



 昼飯ゲットに返事をすると軽やかにコピー機に向い、印刷されて書類を手にデスクに戻る。


 隣のデスクに座る猿谷が大きく息を吐きながら机に突っ伏したまま私に苦笑いを見せた。



「実ちゃんは鬼沢さん怖くないの?」


「あの見た目だから威圧感はあるけど、いい人なんじゃない?」


「いい人?! すぐ怒鳴る怖い人だよ」



 机から起き上がり自分の両腕をさすりながら大袈裟に怖がってみせる。


 私の前に座る白鳥は怖がる猿谷を鼻で笑ったのを合図に、先ほどの続きと言わんばかりに二人は言い合いを始めた。


――毎日こうだと逆に仲がいいのか?


 溜息を吐いてから書類に目を移すとバレンタインデーの文字が踊る企画書に気が引き締まり否応無しに集中する。


 今回のバレンタインデーはファッション雑誌の人気モデル円(マドカ)とのコラボで世間からも注目されている。


――コラボと言ってもモデルさんの意見は一切ないんだけどね。


 本人になにかイメージがあればと尋ねたが、一切をお任せすると言われ鬼沢班主体で進んでいる。


 大きな仕事で犬神班もサポートとしてそれなりに忙しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る