第61話

「早朝に鬼沢から電話が来て犬神班から提出された資料に不備が見つかったから朝一で直せって……」


「終わったのか犬神?」



 仕切りの上から鬼沢の顔が現れ犬神をギロリと睨みつけ、ゆっくりとこちらに歩いてくる。


 身長は差ほど変わらないが、ホッソリとした犬神とは対照的に鬼沢はガッチリとした筋肉質のマッチョだ。


――鬼そのものって感じだよね


 挨拶するのも忘れて隣に立った鬼沢を見上げていると、野太い声で話しかけられる。



「犬神の手伝いは不要だ。それより猿谷の教育はちゃんと出来ているか?」


「はい。今日も、もう出社してますし仕事もしっかりやってますよ」



 デスクトップのパソコン画面に身を隠すように座っている猿谷をギロリと見て鬼沢はフンッと鼻を鳴らす。



「どうせ終電に乗り遅れて、その辺りで夜を明かしたから出社が早くなっただけだろう」



――まさにその通りです。


 きつい物言いをするが、猿谷のことを気にかけているのを見ると面倒見はいいのだと思う。


 それに、鬼沢班を追い出したというが本当のところは型に嵌ったような仕事をする自分の班より、自由な犬神班でのほうが猿谷には合っていると移動させたんじゃないかと思っている。



「ちゃんと躾ろよ。犬神、お前はあと10分で仕上げて持ってこいよ」


「分かったわかった……ムサ苦しいから早く向こうに帰ってください」



 鬼沢はシッシッと犬神に手で追い払われると「遅れるなよ」と釘を刺して仕切りの向こうに戻て行く。

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