実の生態

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第59話

丁度開いた会社のエレベーターに小走りで乗り込むと、頭上で挨拶する声が聞こえて顔を上げる。



「おはよう実ちゃん」


「あぁ、猿ちゃん。おはよう今日は早いね」


「終電逃して漫画喫茶から出勤」



 へラッと笑ういかにも軽そうな猿谷 忍[サルタニ シノブ]は私の後輩。


 企画部は大きく二つのチームに分かれている。犬神 剣一[イヌガミ ケンイチ] と鬼沢 鋭二 [オニサワ エイジ] が率いる班の二つで、私は犬神班でずっと仕事をしてるが猿谷は半年くらい前に鬼沢の逆鱗に触れて犬神班に移動となった男だ。



「若いな……早く着替えに行かないと鬼沢さんと鉢合わせて怒鳴られるよ?」


「マジで?! ワイシャツは着替えたんだけどな」


「そうなの? それじゃ、ネクタイが緩いんだよ」



 エレベーターが企画部のある階に止まり、ホールに出てから猿谷は指摘されたネクタイを直す。


 鏡の無い場所なので「どう?」と鏡代わりに聞かれるが、曲がっているのを口で言うよりも直した方が早い。



「猿ちゃん。ちょっと屈んで」



 身長差のある猿谷に屈んでもらいネクタイを直していると、後ろから不機嫌な挨拶が聞こえる。


 声の主がだれなのかは分かっていたので、慌てることもなく猿谷のネクタイをきちんと直してから振り向く。

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