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第52話

タオルで手を拭いて一息付こうとソファーに目をやると、満腹のお腹を押さえて転がっていた実が俺の視線に気づいて起き上がる。


 ソファーの影に隠れていた小さな紙袋を取り上げて、俺に見せながら実が手招きしている。


――なんだか嫌な予感がする


 朝の変な財布と同じ雰囲気が実の表情からプンプン漂っているので、警戒しながらも冷静を装ってソファーに近づく。



「片付けご苦労様。さっ、座ってすわって!」



 隣にそっと座ると実は紙袋から「ジャ~ン!」と効果音つきで中身を見せる。


 実の手には2本のブラシとシャンプーが握られていて、よく見なくともそれが人間用か動物用かはすぐに分かった。


――やっぱりな。ここは先手必勝!


 これから何が行われるかは予想の範疇だ。大人しく受け取って隠してしまえばいい。



「ありがとう」



 営業スマイルを向けて実の手から犬用のタグが付いたブラシに手を伸ばすが、勘付いたのか実は素早くブラシを自分の胸元に引く。


 プレゼントをもらう俺より、はるかに嬉しそうな笑顔を浮かべ目を輝かせている。

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