第51話
「えっと……美味しそうだね! いただきます」
俺の様子を窺いながらへラッと笑顔を見せ、ソワソワと何かを待っている。まるでお預けをくらった犬のようだ。
――あぁ、そういうことか
実が「良し」の言葉を待っているのに気付きプッと吹き出す。
「ククッ……どうぞ。それ、鍋のつけダレな」
置いた箸を取り直すと嬉しそうに端を伸ばし、鍋をつついている間に、茶碗にご飯をよそってやる。
ハフハフとしながら嬉しそうに鍋を食べる実を見ると、ちょっと誇らしい気持ちが生まれる。
――餌付け成功か?
いつかの女が言っていた「胃袋から落とす」の言葉を思い出しフッと笑いが漏れる。
「美味しい! 銀は料理も上手で部屋も凄い綺麗になってるし完璧じゃん!」
「まあな。食材もサービスしてもらってかなり多く買えたしな」
「今までも、こんなことしてたの?」
箸の先を口に咥えたまま首を傾げる実の質問に、上げた箸を下ろし顔を顰める。
――誰にでも尻尾を振る軽い奴だと言いたいのか?
確かに一日充実したなとか思って気分も高まっていたが、俺にだってプライドってもんがあるのだ。
「まぁ、仕事がちゃんと出来てるから良いけど……それと銀にお土産買ってきたんだよ。ご飯食べたら見せるね」
そうだ! 俺は生きる為に家事と言う仕事を引き受けて、完璧にこなしている。
――気にすることなど一つもない。
自分のプライドを落ち着かせるとフンッと鼻を鳴らし、当然だと言う表情を実に見せつける。
「本当にご飯も美味しいし、ありがとう」
嬉しそうにご飯を食べる実の姿に、さらに落ち着きが増して余裕が生まれたところで俺も食事を始める。
実は終始にこやかに飯を食い、ご飯を2杯もお代わりして、小さい体のわりに俺より食べたんじゃないかと思う。
これだけ食べてくれると作ったほうも気持ちがいい。思わず尻尾と耳が飛び出しそうになるのに注意して後片付けを手早く済ませた。
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