第49話

「銀、ただいま!」



 元気いっぱいの声が玄関から聞こえ、迎えに出るべきかここで獣人になって待つべきか迷っていると催促の声が聞こえてきた。



「銀! 帰ったよ!」



 どうやら迎えに出た方がいいらしい。リビングから廊下を覗くと実が靴を脱いで仁王立ちしているのが見える。


 変な緊張をしながら廊下に出て実に近づくと顔を歪めて首を横に振り俺に注意をした。



「違う! ちがう!」



 唇を尖らせて文句を言う実を見て、思い出したように上着を脱いで獣人の姿に変わる。


――まったく、なにがいいんだか


 姿が変わったと同時に実はパッと笑顔になり飛びついてきた。



「これだよこれ! モフモフ天国……ただいま」


「お、おかえり?」



 なんのことはないと思っても、飛びつかれ甘い香りを嗅ぐとソワソワと落ち着かない気持ちになってしまう。


 胸毛の部分に頬を擦り付けている実が離れるのを棒立ちで待っていると、キッチンから鍋の蓋が躍る音が聞こえる。



「ちょっ、鍋が吹き零れそうだから離れろ!」


「やだ」



 抱きつく力が強くなっただけで、離れる気配はない。だが、迷っている暇もなくそっと実の背に手を回して体を持ち上げると火を消しに慌ててキッチンに戻る。


 なんとか吹き零れる前に火を止められホッとするが、相変わらず胸にへばりついている実に戸惑う。

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