第48話

「なんだこの緩い時間! 最高!」


 気分が高まり狼の姿に戻りベランダの窓を開けて星のきらめく夜空に遠吠えをする。


――ヲォォォーン!!


 気持ちよく夜空に遠吠えが響き渡ると、近場の部屋の窓が開く音がして慌てて前足で窓を閉め、カーテンを咥えて引く。



「なにやってんだ俺?!」



 物心ついた頃には自分で感情をコントロールして姿を隠すことが常だった。


 部屋の中だと言っても人の沢山いるマンションで自分の存在を誇示する遠吠えなどもってのほかだ。


 身を屈め大きな耳を前足で押さえると目元を隠す。


――平常心、平常心


 尻尾をパタパタと振り気持ちが落ち着いたところで、人の姿に戻り脱げた服を拾って着替えた。



「鍋に火を入れないと……」



 一日目でこんな調子じゃ冬が終わり、ここを出て行くとき俺はいったどうなってるんだろう。


 ここに置いてくださいと頭を下げるなんて考えるだけで情けない。



「いつもと勝手が違うからだ! 俺は一人で強く生きてるんだ!」



 また熱くなり始めた感情を抑えて食器を出してテーブルに並べる。



「これは、生きる為に取引した仕事……飼いならされたわけでも弱みを握られたわけでも……なくはない」



 棚の上に置いたままになっているノートを見て溜息を吐く。早く燃やして暖かくなったらここから出て行く。


――動画も消して最悪、実も


 瞳を金色に光らせて黒い考えを頭に浮かべていると、玄関のカギを開ける音が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る