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第45話

実の名刺を見ながら近所の商店街に向かう。ポカポカとした陽射しに身も心も温かい。



「お兄さん! 今日は白菜がお買い得だよ!」



 いつもなら声を掛けられる前に気付く気配に、全く気付かず驚いて足を止めて声のする方を見ると、恰幅の良い八百屋の店主が二カッと笑っていた。



「お兄さん、首に掛けてる財布いいねえ。お子さんの手作りかい?」



 言われて自分の気が酷く緩んでいることに愕然とする。

 

 ダサいと思っていた財布を実に言われた通り、首から下げて俺は何をしているんだ?

 

 慌ててその場で財布を首から外すと、八百屋の店主は豪快に笑う。



「娘さんいくつ? うちのはドラ息子でね。いい歳してまだ独身で孫の顔が早く見たいもんだよ」



 モデルだと間違えられることはよくあり慣れていたが、父親だと言われたのは初めてで驚愕する。



――父親なんて嘘だろ!? この財布は呪いかなにか、かけてあるのか?



 この容姿とフェロモンで人の世を生き抜いてきた。その自信がどんどん揺らぐ。



「白菜に人参。キノコも美味しいよ! 寒いし鍋なんてどう? 今日はそこの魚屋で、鱈が安いよ」


「あぁ、肉も買わないと……」


「それなら、あっちの肉屋がいい! お兄さん男前だからサービスしてくれるよ! スーパーで買うより絶対お得だから!」



 グイグイくる商売圧は商店街にあるスーパーへの対抗心だろうか。


 でも決まったお金しかないので一応、見て回りたいし、もう一つ気になるものを探さなければと手に持っていた名刺を見る。



「お菓子……お菓子も買わないと」


「ははっ! 駄菓子屋を紹介したいとこだが、そりゃ無いからスーパーかコンビニだな! 娘さんのお菓子買ったらまた寄ってよ!」



 すっかり父親だと誤解されていたが、陽気に送り出されホッとしながら途中にある魚屋と肉屋を横目に当初の目的であるスーパーに向かった。

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