第41話

取り出したものをテーブルに置くと、俺の前に滑らせる。



「ここが私の職場。なにかあったら気にせずに連絡して」


「製菓会社?」


「そう! 新しいお菓子の企画をしたりする仕事」



 足元に置いてある自分の鞄から何かを取り出して、凄く嬉しそうな表情で近づいてくる。


 なにか不穏な気がしてつい身構えるが、実がジャーンと言いながら見せたのは手作り感満載のポーチらしきものだった。



「ちょっと頭下げて!」



 少し背を丸めて頭を出すと、首にポーチらしきものを掛けられる。


 首に掛けられたものを手に取ってまじまじと見ると、フェルトで作られた狼らしきアップリケとGINと名前が縫い付けられていた。



「なんだこれ?」


「お財布だよ可愛いでしょう? その中に食費と鍵が入ってるから無くさないように首から掛けられるようにしたんだ」



 財布なのか?! そしてダサい上に首掛けという迷惑機能つき。


――全然うれしくない。


 顔を引きつらせ、とんでもない財布に呆然とする俺にニッコリと微笑むと身支度を整え靴を履いたところで実が振り返る。



「それと、銀は携帯電話持ってる?」


「あぁ、一応……」



 携帯電話を女から連絡用に持たされ、料金も未だに払われているらしく使わせてもらっている。



「ふーん。それじゃ貸して」



 ポケットから携帯電話を取り出し、ロックを外して渡すと実がダイヤルを押すと実の鞄から携帯電話の着信音が聞こえすぐに止んだ。



「よし! これが私の番号だから登録してね。帰ってくるとき電話するからよろしく! いってきます」



 携帯電話を返すとドアを開けて上機嫌に出ていく実に呆気にとられながら「いってらっしゃい……」と呟くように送り出した。

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