第40話

振り返ると欠伸をしながら寝癖でボサボサ頭の実がフラフラと歩いて来ていた。


――朝が弱いのか?


 テーブルに朝食を並べ終る頃にやっと席についた実は、目をこすりながら俺に挨拶をする。



「おはよう銀……あれ? 銀は朝ごはん食べないの?」


「あぁ、俺は後で食べる」


「そっか……それじゃ頂きます」



 手を合わせてトーストに手を伸ばすが、開いているのかどうか分からない眠そうな目に不安を覚え、実のコーヒーカップの位置をそっとずらす。


 寝癖をピコピコと揺らしながら、静かにトーストやサラダを食べる姿はなんだか小動物のようで面白い。


 向かいの席でコーヒーを飲みながら笑いを堪えて観察していると、黙々と朝食をたいらげて大きく伸びをする。



「美味しかった! ごちそうさま!」



 やっと目が覚めたように珈琲を飲みながら食器を流しに置き終ると機敏に動きだした。


 洗面所と部屋を行き来しながら少しずつ大人っぽく変わっていく様子に目を見張る。


――あれが、外仕様の実なのか


 初めて会った夜も見たはずだが、ほとんど空腹で出されたご飯しか覚えていない。



「銀、今日の予定は?」


「布団干し」



 部屋の隅でまだ真空状態の布団に視線をやり答えると、実は「あぁ」とだけ答え着ているジャケットの内ポケットを探っていた。

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