第39話

食パンをトースターに入れ、もう一度ヤカンを火にかけ直して実の部屋に向かう。



「朝だぞ! 朝食出来てるぞ」



 ノックをして声をかけてみるが、返事どころか動く気配すら感じられない。


――ドアを開けてもいいのか?


 おそらく仕事に行くだろう実を遅刻させたら結局、怒られるのは変わらないと思いドアを開けた。



「入るぞ実。朝だ起きろ!」



 部屋の電気スイッチを入れると、実の部屋は机に大きな本棚とベッドがあるシンプルなものだった。


――女っ気があんまりないな。


 部屋を見回し、ベッドの上で頭まですっぽりと掛け布団をかぶって山を作っている実に声をかけるが微動だにしない。



「遅刻するぞ」


「うるさい……博之」


「ヒロユキ?」



 寝ぼけてあの元彼と間違えてるのか? どうと言うことはないが早く起きて欲しい。


 先にヤカンの火を止めに行くか迷うところだが、実を起こさないとお湯も意味がない。


 思い切って掛け布団を掴んで剥ぎ取るとベッドの真ん中で丸くなっている実は光を遮るように顔を隠す。



「猫かよ……おい! 朝飯できてるぞ!」


「うっ……うん。ごはん」



 反応があったのを見て、起きただろうとキッチンに戻ると勢いよく蒸気の上がるヤカンの火を慌てて止めた。

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