第34話

「嫌だ! 話が別だ」


「駄目か……つまんない。銀、コーヒー」



 テーブルに置いた本を取り、ソファーで体勢を崩してまた読み始める。


――ノートを取り返すための策略だったのか?!


 なんだか掴めない実を驚きの目で見ていると「コーヒー」と急かされる。



「いらないんじゃないのかよ!」


「気が変わったの。ブラックでいいから」



 立ち上がらない俺のお尻を足でグイグイ押して早くしろと急かされる。女にこんな足蹴にされたことは今までない。


 渋々、腰を上げて目を細めてじっくりと実を見るが、やっぱりただの小さな人間の女。



「人の世に紛れた妖怪だとでも言われた方がよっぽど納得するんだけどな……」


「ぶつぶつ言ってないで早く!」



――苦いコーヒーを淹れてやろう


 小さな仕返しを思いつき、渋い顔をする実を想像しながら珈琲をクツクツと笑いながら淹れた。

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