第33話
「月夜に吠えろ三巻。ファンタジー小説。銀も読む?」
「いや……」
「チッ!」
険しい顔で舌打ちをすると、また本に視線を戻す。怒ったような反応が不思議で何も言わずにずっと見ていると、また実が本から顔を上げる。
「何読んでるか聞いても、興味ないでしょう? 意味ない質問して私を本の世界から引っ張り出すのやめてくれる?」
「誰かと居るときは、本の世界に行かない方がいいんじゃないか?」
かまってもらいたい訳じゃないが、思ったことがポロッと口から出てしまった。
しまったと思った時には遅い。実は読んでいた本にしおりを挟んで閉じ、テーブルに置くと俺を見てにっこりと微笑む。
「それなら、本より楽しい話があるんだよね?」
そわつく気持ちになんとなく話しかけただけで話題があるわけじゃない。
いつものように肩を抱き、唇を寄せて押し倒すなんてしたら電気が走りそうだしな。
「しょ、食後のコーヒーでも飲む?」
「いらない」
逃げるように上げた腰を直ぐに戻す。謝るのは癪だと考えていると実が溜息をつく。
「ほら、楽しい話題なんてないじゃない。あれ、返してくれたら許してあげる」
そう言って俺が棚の上に乗せたノートを指差す。一瞬、それならと従いそうになったが思い留まった。
あのノートは俺の身を危険にさらすものだ。それに、許してもらう筋合もない。
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